第2話 金子透の章 その2
─声をかけられたのでそっちを向くと、さっきの売店のお姉さんだった。ドキッとした。売店でみたときも、綺麗だったが改めて綺麗だと思った。
またしても、見つめてしまっていたらしい。お姉さんが心配そうにこちらを見ている。
「えっと、私の顔に何かついてる?」
怪訝そうな顔をして聞いてくる。まあ、こんなにじっと見つめてこられたらそんな反応になるよな~。…じゃなくて!何とか誤魔化さなければ!
「あ、いや、そういう訳じゃなくて、その…、ハーフの方なのかと思って!」
咄嗟に出てきたのが、これだった。いくら焦っていたからといって、こんな質問を知り合いの知り合いでもないほぼ初対面の人にするのはどうなのだろうか。もっとましな誤魔化し方だってあっただろう。そんなことを思ったけれど、もう口から出てしまった以上は、銃の弾丸のように引っ込めることは出来ないので、相手の反応を伺うしかない。
お姉さんは少し驚いているようだった。当たり前といえば、当たり前な反応だと思う。急にそんな事を聞かれることはそうそう無いだろうから。まあ、僕がその"そうそう"なのだけれど。
「ああ! もしかして、この目のこと? よく言われるんだよね~」
とりあえず頷いた。まあ、目もそうだけど、髪も金髪のような色だから…と言うのは野暮な気がしたので言わなかった。
「残念ながら?、私はハーフじゃないよ。目はカラコンなんだ」
お姉さんはそう教えてくれた。別に、ハーフなのを期待していた訳ではないので、その反応をされるのは納得が行かないのだけれど、怒ったりはしていないようで安心した。
それにしても、なるほど、カラコンだったのか。おしゃれなんて、ほとんど考えたこともなかったので、思いつかなかった。そして、ハーフでもないとのことだから、髪も染めているのだろう。手入れが行き届いていて、すごく綺麗だ。
「そ、そうだったんですね。すみません、急にこんなこと聞いて」
「ううん、大丈夫だよー」
まだ少しドキドキしながら、何とか返事を返すと、お姉さんは優しく返事を返してくれた。もう少しおしゃれな返しでも出来ればなんて考えるが、何はともあれ、また見つめてしまわないように気を付けないと。今度こそ、 変な奴だと思われる(もう思われてそうではあるけれど)に違いない。なので、一秒でも速くバスが来てくれることを願った。
…ん?そう思ったところで、疑問が出てきた。お姉さんもバス停にいるのだから、帰りのバスが同じなのでは?と思った。そう思った途端、またドキドキしてきてしまった。どうしよう。一端、父の病室に戻るなりして次のバスで帰るか、もしくは、傘はあるから歩いて帰るなどと、とてもじゃあないが出来ないことを考え始めた時に、またお姉さんから声をかけられた。
「君、多分だけど次のバスに乗るんだよね?」
「は、はい。そのつもりです」
咄嗟に返事をするというのがどれほど愚かな事か、改めて思った。これで、僕は次のバスに乗らなければ行けなくなってしまった。もちろん、これは、僕が勝手に思っていることであって、別に次の次のバスだって何も問題は無いのだけれど、そんな事を考えられるほど、このときの僕の頭には余裕が無かった。
「そっか。気を付けてね」
「…?、気を付けてねって…、お姉さんは乗らないんですか?」
また、余計なことを聞いたと思った。返されても、答えられるかどうかも怪しいのに。
「うん。私は雨宿りをしてるだけだから」
寂しそうな感じにお姉さんは言った。
そう聞いて、僕の心配と期待はどこかに飛んでいった。正直、『このお姉さんは何を言ってるんだろう』と思った。このほとんど晴れるどころか雨が止まない町で『雨宿り』なんてと。勢いが弱まることだってほとんどないし。そんな事をしようものなら、ほぼ一生身動きが取れなくなりそうなのだから。
「雨宿り…ですか?」
「そうだよ?…あれ、もしかしてもう若い子って雨宿りって言葉使わない?」
「そんな事は、無い…と思いますけど、この町ではあまり聞き慣れないと言うか…」
この町ではなんて、まるで他の町の様子を知っているかのような言い方だ。でも、この町で雨宿りという行為自体は、ほとんど行われていないはずだ。基本的に傘を常備している人がほとんどだし、もし忘れたりしたら、諦めて走るか、誰かの傘に入れてもらうはずなのだから。そもそも、お姉さんだって傘を持っているし。…休憩という意味合いで使っているなら間違ってはいないとは思う。でも、『わざわざバス停で?』という疑問が残る。
「そっか、良かった~! 古い人だと思われちゃうかと思ったよ~」
「あ、あはは…」
心の中で、『心配するところ、そこなんだ…』と突っ込んでしまった。…まあ、人にはいろいろと事情があるものだから、あまり詮索するのも良くないと思って、それ以上に何か聞こうとは思わなかった。
それからしばらく(感覚的には全然)して、周りもすっかり暗くなってきたとき、遠くからバスのものと思わしきエンジン音が聞こえてきた。少しずつライトの光が近づいてくる。
「あっ、来たみたいだね!」
「そ、そうですね」
お姉さんが声をかけてくる。また、びっくりしてしまった。
バスが目の前に進んできて、止まった。入り口の扉が開く。立ち上がり、バックを持ち上げる。来たときよりは軽いけど、また着替えを持っていかなきゃいけなくなった時のことを考えると、気が重い。
乗り込もうとした時にお姉さんが、
「そういえば、ありがとうね」
と声をかけてきた。
驚きやらなんやらで頭に「?」が浮いた(気がする)。
「ミックスオーレ、譲ってもらっちゃって」
「ああ! その事ですか! いえいえ全然、大丈夫です!」
すごく綺麗で、まぶしい笑顔で言われてしまったので、また上ずった声で返事をしてしまった。
「それじゃあ、気を付けてね~」
「は、はい。気を付けます」
コレがオウム返しというやつだろうか。すごく間抜けな返事をしながらバスに乗り込んだ。扉が閉まり、動いていく。すっかり姿が見えなくなってしまった。
「すごく綺麗な人だったなー…」
また、思わず声に出してしまった。
すごく綺麗で、すごくまぶしい笑顔をする人だった。そんな事を思いながら、ぼくを乗せたバスは、夜の道を駆けていく。帰りのバスは、バス停で待っていた時間とは比べ物にならないほど長く感じた。
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