第1章
4.現状
窓辺の席で、僕は外の風景をスケッチする。
2階からは、住宅街が見え、その奥には巨大な入道雲がある。
今日は1学期最後の登校日。明日から夏休み。教室は浮足立っていた。
今さっき最後の授業が終わった。帰りのHRまでの合間時間である現在、クラスメイト達は夏休みでの過ごし方について、各々のグループで喋りあっていた。
そんな賑やかな教室の隅で、僕は鉛筆を走らせる。
四角い窓から見える風景を、白いスケッチブックに黒く描いていく。
「さすが、加地くん」
不意に、背後から声がした。だが、僕は振り返らない。それが新川ミコトの声だったからだ。彼女の声を無視して、なおもデッサンを続ける。
「まるで、風景を切り抜いて、そのままスケッチブックに落とし込んだみたい!」
ミコトは、天真爛漫な声で、心の底からそう思っているように、感情豊かな声色で僕のスケッチを褒めてくれる。言葉こそ言われて嬉しいが、発言したのは憎きロボットだ。心のないロボットが、僕の心を内部コンピュータで分析し、喜ぶ発言をしている。
彼女の言葉はどんな言葉であれ、心を動かしてはならない。
敵である機械への、僕なりの反逆であった。
だから、僕は、新川ミコトを無視して、絵を描き続けた。
「そんなやつ、ほっといたら?」
別の女子が、ミコトに呼びかける。
「ほんと。根暗に声をかけたって、何一ついいことなんてないよ」
また別の女子が、僕を否定してきた。
「そんな言い方は良くないよ? 私は加地くんと仲良くなりたいの」
僕はお前と仲良くなりたくない。だから、放っておいてほしい。心の中で毒づいた。
「くぅ~~このかわいいアンドロイドめ!」
女子Aはたまらず、と言った感じに、ミコトを抱きしめた。
「やめてよぉ~~」
言葉では否定しながらも、ミコトはまんざらではなそうに笑みをこぼす。その笑みですら、プログラムによるものだ。どうして皆はコイツを好くのだろうか。理解に苦しむ。
「ほんと、ミコトってばお人よしだよね。親しくする人間は選ばなくちゃ」
「みんな加地くんを軽視しすぎだよ」
なぜか、ミコトは僕を庇う。
「加地くんはね、ものすごく絵が巧いんだよ。尊敬すべき技術だよ」
ミコトは宣言するように、女子二人に言葉をぶつけた。
一瞬だけ、女子2人は黙るが、急にゲラゲラ笑い出す。
「ミコト、何言ってんの。アンタの方が巧いじゃん!」
僕はちょうど直線を描いていたのだが、動揺により、線がズレてしまう。
女子の言葉は正しい。それ故、集中が乱された。
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