第13話 ずっと、一緒に居たい……かも?
それからさっさと納品を済ませ、受け取った銀貨と銅貨を数える。
「……よし、いつも通りね」
いつも通りの金額だということを確認し、店主に挨拶を済ませて私はアデラールを連れて街の大通りに戻った。
バベッチには日用品を売っている通りと、食料品を売っている通り。あとは、飲食店の通りで別れている。
言っちゃあなんだけれど、私は街に来てもほとんどこのバベッチなので、ここら辺には詳しい方だと思う。
「行くわよ、アデラール」
アデラールと腕を組んで、私は歩く。少し彼の身体が強張っているのは、どうしてなのかがわからない。
もしかしたら、彼も異性に慣れていないのかも……。
(なんて、想像しても無駄よね。だって、アデラールは元とはいえ領主様。女性には困らなかっただろうし)
そう思いなおして、私はゆるゆると首を横に振った。
貴族の男性は、モテる。特に辺境伯ともなれば、モテない方がおかしい。それに、アデラールはとっても見た目が良い。そんな彼を貴族令嬢が放っておくなんてこと、考えられなかった。
「……あのさ、フルール」
そんなことを考えていると、不意にアデラールが私に声をかけてくる。
なので、私が彼の顔を見上げれば、彼は仄かに頬を赤くして私を見つめてくる。
「その、さ、あの……えぇっと」
なんとまぁ歯切れの悪い言葉だろうか。
彼が何を言いたいのかも全く分からない私は、小首をかしげる。
「……どうしたの?」
もしかして、こんな女を連れて歩くのが恥ずかしいとか?
……あり得るわね。私、そこまで美人じゃないし。
「あぁ、嫌なんだったら腕とか離すけど――」
「そ、そうじゃない」
私が組んだ腕を離そうとすると、咄嗟に腕を掴まれた。……どうやら、彼は私を連れて歩くことに恥ずかしいとは思っていないらしい。……いや、命を狙われないためには、こんな女でも連れて歩いた方がマシなのかも。
「……あのさ、俺、フルールに迷惑ばっかりかけてるなぁって」
「……はぁ?」
「俺、フルールの役には立ってないし。……ずっと一緒に居たら、もしかしたらフルールにも危険が――」
どうやら、それが彼の悩みらしい。
でも、そんなこと関係ない。私を侮られるのも、困る。
「何言ってんのよ。そんなの、今更でしょ?」
「……だ、けどさ」
「それに、私はそう易々とやられたりはしないわ。……私には、確かな魔法の知識がある。そこら辺の刺客くらい、やっつけてやるわよ」
これは、割と真実。私は師匠から高度な魔法を教えてもらっているし、使うのだって得意な方だ。
だから、そう簡単にやられたりしない。
「……本当、か?」
「えぇ、本当よ」
彼は一体何がそんなに不安なのだろうか。
そう思いながら、私たちは歩く。地面を踏みしめながら、ただ無言で歩く。
「……そっか」
それからしばらくして、アデラールが嬉しそうにそう声を上げた。
「俺、フルールの役に、立ちたい……って、思ってる」
「……そう」
「だって、俺のこと助けてくれたし。……フルールのこと、その」
アデラールが少し言いにくそうに口ごもる。
けれど、私はその言葉の先が気になって。彼のことを肘で小突いた。
「し、師匠みたいな存在だって、思ってるから!」
慌てて取り繕ったような言葉だった。
でも、師匠、師匠、かぁ……。
(悪くない響きだわ)
確かにそう思った。
だって、師匠よ? ありどころか、嬉しすぎる。……なんとまぁ単純な女かと思うけれど、実際嬉しいのだもの。
「そう、ありがとう」
ほんの少し頬を緩めて、アデラールに向き直る。
そうすれば、彼はさっさと私から顔を逸らしてしまった。その頬が仄かに赤くなっているのは、きっと気のせいじゃない。
「フルール……」
アデラールが優しい声で、うっとりとしたような声で私の名前を呼ぶ。……何となく、色っぽいかも。
なんて、色気とは無縁の私には、関係ないけれどさ。
「ほら、さっさと行くわよ。時間は有限よ。無限じゃないの」
でも、とりあえずさっさと買い物は済ませてしまわなくちゃ。
その一心で私がそう声をかければ、アデラールは「うん」と言ってくれた。
「俺、絶対にフルールに恩返し……したい、んだ」
「……期待しないで待っておくわ」
彼の言葉に、素っ気なくも聞こえる言葉を返す。……恩返し、か。
(そんなもの、必要ないのに……)
なんとなく、私はこのにぎやかな生活が楽しい。それは、もしかしたらつまり――。
(アデラールと、ずっと一緒に居たいって、言うことなのかも……)
心の中では、わかっている。
――そんなの、無理なことだって。叶いもしない願いだって。
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