(12)
「「昨日は上手く誘えてよかったな、楓」」
「「そりゃ勿論。匠の業ってやつ?」」
「「葉月ちゃん、それを自分で言っちゃたら台無しだよー」」
30日――みんなで桜祭りに行くことが決定し、今日はその日に向けての最後の話し合いだ。俺はベットに寝ころびながら、グループ通話をしていた。
ここから一週間、少し時間は経つが、そんなのは無情にも一瞬で過ぎ去る。早めに当日の動きを確認しとく方が、葉月の心情的にも安心するだろうという俺の計らいだ。
「「で、祭りの日のいつにそうするんだ?」」
「「色々考えたんだけど、やっぱり最後の花火が上がる時かなって思うの」」
「「そうだね。それが一番得良いと思うよ!」」
「「まずは桜祭りをみんなで楽しみながら、花火が上がる少し前に俺たちがさりげなく離れて、月島と葉月を二人っきりにする……みたいな感じだな」」
こんなところが大筋だろう。
「「私たちが上手く立ち回るから、葉月ちゃんは心配しなくていいよ」」
楓の明るい声が葉月の下を向きがちな心を明るく照らす。
「「うん……本当にありがとうね、二人とも。一か月間、私のためにこんなに頑張ってくれて」」
そうか……もう、あの日から一か月なのか……
「「なにを今さら。俺たちは『悩み部』だぞ? クライアントのためにやるだけだ」」
「「薪君、クライアントって……」」
顧客満足度ナンバーワンの部活です。給料? ありませんよそんなもの。お客様の笑顔で十分です! ブラック企業かよ。
「「っふっふ。今まで言えなかったけど、二人ってやっぱ息ぴったりだよね」」
「「ぴったりじゃない」」
「「ぴったり⁉」
あ。
「「ほらー」」
なんだ、この漫画みたいな流れは。俺たちにその話題はとても気まずい。
「「ほんとはさ、二人ってどういう関係なの? 秋宮君、なにか隠してない?」」
ギクッ!
「「いやいや、隠してない隠してない。隠れミッキーより隠してない。な、なっ葉月!」」
「「う、うん! ほんと、ほんと。えへへ~」」
「「ならいいんだけど」」
絵に描いたような誤魔化し方をして、なんとかやり過ごす。この人、たまに急所付いてくるからコワい。
「「っていうか、葉月。今日はやけにテンション高いな」」
先ほどからの、やや高い声色、しゃべる速さ、普段しないような質問。電話越しからでも何処か浮わついている彼女の様子が目に浮かぶ。
「「まあそれは、ね。いよいよだなって思うと……」」
「「不安か? それを紛らわすために?」」
「「不安、ではあるけど、楽しみでもあるな。両方が入り混じってて良く分かんないや」」
この気持ちは良く分かる。俺もそうだったから。でもその結末はきっと俺とは全く違うはずだ。
「「表現するなら、どんな感じなのかな?」」
楓が落ち着いた声をポツンと漏らす。
彼女もまた、彼女なりにこの「問題」について真剣だ。
「「……無理、だと思うよ。表現なんて出来ない。表現なんてしたくない。たったそれだけじゃ、収まり切れないものだから、ね」」
「「……」」
シーンと静寂が俺たちを包んだ。
「告白」という二文字が現実味を帯びてきて、どうしてもマイナスなことを考えがちになってしまう。でも、こういう過程も恋には必要なんだと思う。
悩んで悩んで悩んで。
その先にあるものがなんなのか分からなくても、心を駆り立てるその想いに身を任せて。ただひたすらに足を一歩進める。
そう。ただ葉月は今、その最後の一歩を踏み出そうとしているだけ。
だから、
「「……それじゃあ、そろそろ寝ようか」」
「「うん。もうこんな時間だしね」」
「「葉月ちゃん……」」
――その先の言葉なんて必要ない。
「「楓ちゃん……」」
――俺たちの思いは一つの矢となり、一人の男のハートを射る。
「「おやすみな」」
※
それからの一週間は、長いようで本当に短かった。
なにかの妖精に時間の針を進められているような感覚だった。
俺たち四人はこれまで通りに過ごしてきた。登下校、休み時間、昼休み、放課後。とりわけ、葉月は月島といる時間が長かったような気がする。
葉月も明日のために、身を削るような思いで頑張ってきた。
幼なじみの友達から、たった一人の特別になるために、一歩一歩進んできた。
一か月。
一ケ月も、こんなに頑張ってきたんだ。
この物語が報われなくて、一体どうしろって話だ。
俺たちも出来る限りのことをした。
作り立ての「悩み部」ではあったが、俺と楓の「恋」に対する想いの信念のもと――とりわけ楓は相当な思いでやってきたはずだ。
彼女もまた、この物語の主人公である。
だから、あとはもう、結果を待つことしか出来ない。
――葉月の心を満たすもの
それが恋であることを。
それがたくさんの幸せの色であることを。
俺はただひたすら、その時が来るまで祈っていた。
――神様どうか、葉月がしあわせになれますように。
※
あなたさえいれば、私はなにもいらない。
あなたさえ私の隣に居てくれれば、それでいい。
ただただ、すっと傍にいたい。
同じ景色をあなたの隣で見ていたい。共有したい。
私だけを見て欲しい。
だから……
※
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