第13話 初めて見る景色たち
『本日のお宅訪問、今日はモンじいの鍵屋でございます!』勝手にナレーションを頭の中で流しながら道具と部品とゴミの山を通り抜けていく。
鍵屋入り口から、左に旋盤等の機械があって、右側には素材という名の金属片ゴミが多数。突き当りから右に進むと、台所っぽい水回りがあって、また右に曲がるとトイレ、シャワー室、さらにゴミがあってベッドっぽいのがある。
「床にマット置くとさ、埃や金属粉を吸う可能性があるから、高いところに寝てんだよ。ライト用にオレの向かい側を場所確保するか」
「モンじい、せっかく掃除するなら、この際、必要・不要でゴミ出した方が、拾ってきた素材を仕分けできるし、トイレとシャワーも使えると衛生的。というより、お風呂ってカモミールパレスにあるの?」
「あるんだよ、それが。7階に広い風呂があって、その隣が、娼館になっている。知ってるか?パレスには娼婦館と男婦館があって、それぞれの館は、性別問わず客の要望に対応できるようになってんだ。男が女、女が男だけじゃなくて、男が男、女が女ってこともお望みのままってわけだ。ライトには、ちょっと早い話だがな」
「へ~、そうなってるんだ。7階自体が入れないのかと思ってた。門番がいるとか聞いてたから」
「そりゃ、店の前だけ。ウチは鍵屋だから、娼館の荷物置きの鍵を無くしたと言われれば、開けに行って鍵を作り直す。そういうこともやってんだよ」
「それなら、エクレアさんに会えるかもね」
「よく知ってんな。口説いたのか?」
「んなぁ~、違う!挨拶して、何度か話したことあるくらい」
「エクレア嬢は、リーダー格の一人だからな。顔見知りなら、仕事もしやすいな」
そんな話をしながら、少しずつ仕分けをしていた。仕事場は、モンじいじゃないと分からない品がほとんどだが、寝床近辺は本当にゴミだらけ。頭と口元にタオルをそれぞれ巻いてマスク代わりとし、掃除を開始。ボロボロのズボンや袖がちぎれて布切れと化したシャツ等、3階の壁際にあるゴミ回収縦穴にどんどん捨てていく。何往復かしているとモンじいが自分を呼んでいた。
「洗濯行こうか。今日は、3階住民が洗っていい日だから、毛布やシーツを持ってくぞ」
カゴに洗濯物を目一杯詰め込んで、エレベータで8階まで行く。
到着した8階は、見える範囲が洗濯機と乾燥機が、ずらーっと並んでおり、ホテルのランドリー室がそのまま使われている、そういう場所だった。まだ、空いている洗濯機も多かったので、3台を使った。それぐらい、洗濯をサボってたんだよ、モンじいは。
洗剤の香りに混ざって、食べ物の匂いがする。他の階から上がって来ているのか?そう考えていると、数名の人がハンバーガーをベンチで食べていた。
「あ~、ライトは8階も初めてだったな。この洗濯機の裏っ側に、カフェスペースがあんだよ。もちろん、大飯幸の店」
「手広くやってるねぇ」
モンじいに連れられカフェスペースに行ってみた。
「あれ、ライトじゃないか!飯食ってるか?お前、また大変だったそうじゃないか」
大飯幸のマンプクが、食材搬入のため来ているところらしい。
「はい、また死にかけて、記憶が無くなりそうになりました」
「笑えねぇよ。また記憶忘れたら、俺の飯食わせて思い出させるがね、へっへ~。何食ってく?」
「オススメは?」
「モンじいには、チキンバーガー。ライトには、メンチカツバーガーだな。2回目以降は、メニューの上から順に食ってけ。全部うまいから」
このカモミールパレスでの食事で、葉野菜を見たことがない。根菜類が主。ビタミン不足も免疫には影響するが、このメンチカツの肉汁の泉は渾渾と湧き続け、肉を食べたことにより、久しぶりに力がみなぎる感じが分かった。そういや、孤児院の配給ご飯は煮込んだ物が多くて、揚げた食べ物は記憶にない。単に、ライトが寝込みすぎて与えられなかったのだろうと解釈。
「先に戻るがゆっくりしていってくれ」
マンプクが、そう言って立ち去ろうとした。
「マンプクさん、ボク孤児院出て、モンじいの鍵屋でお世話になることになりました」
「おーそうか!しっかり鍛えてもらいな!」
肩をバシバシ叩かれ激励を受ける。デカい体からの激励は骨に響く。
「ライトは、孤児院の5階から出たことない割には顔見知りが多そうだな」
モンじいが呟く。
「病気ばっかりしてるから、ご心配を皆様にかけております」
「こんな環境だからな、病気だってするさ」
食べ終わって、乾燥機に向かった。少し湿っていたため、追加乾燥を行なう。
「天気が良ければ、屋上で洗濯物干す人も多いんだぞ」
「屋上出られるの?」
モンじいに誘導され、屋上階段を昇る。モンじいがドアを解錠し、屋上に出られた。
初めて見る外の景色。空は、風が強く雲がどんどん流れていく。少し土埃のような匂い。
「ライト、パレスから南側に衛星落下地点がある。なぜか、あの場所めがけて落ちてくるんだ。そして、東側には、スタジアム都市と呼ばれている場所がある。車で行けるらしいが、許可証がいると聞いたことがある。政府機関があるとか、ないとか。そして、北側。見えるかな、大飯幸の牧場と畑がある。彼らなりに、研究・実験をして、この土地でも、植物を育て、動物を飼育し、パレス周辺の人々を飢えさせないようがんばってんだよ」
「マンプクさんたち、すごいんだ」
「そうだな~。それとパレスの連中はお互いを支え合ってる所はある。南側に見える3つの街は、また独立した場所だから、ここみたいな連帯感はないらしい」
しばらく、初めて生で見る景色を見ていた。木々がほとんど見当たらないので、色のない景色とも感じた。荒廃か。
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