第12話 さらば孤児院
何度となく繰り返しているリハビリを改めてすることになった。ほんとに何度となくだよ。ライトの体を動かすのにあった違和感は減ってきたが、病弱な部分は慎重に様子をみないといけないと思われる。体の成長が免疫力を高めてくれれば、という望みを持ちつつ、健康体になってくれればいい。
隣の治療室に入って診察を受けていると、モンじいが入ってきた。
「いよぉ~、ライト。調子はどうだ?」
「多分、いいはず。診察の結果次第」
「ようやく、オレも健康診断だ」
モンじいの仕事の手伝い予定が控えているので、結果が気になる。それ次第で、再び孤児院で読み書き練習の日々に戻ってしまうからだ。
ソカシ先生が言う。
「よし、ライト。両手の親指以外の指を順番に曲げ伸ばししたり、順番に親指にくっつけたり動きを見せてくれ」
何気ない動きだけど、感電による筋肉の硬直や麻痺等、後遺症が残ってないか、確認テストである。
「ん~、日常生活には支障がなさそうな動きしてるな。記憶の方はどうかな?思い出せないとかあるか?」
「以前の記憶は、やっぱり思い出せないです。蘇生の電気ショックと感電が合わさって思い出せるか?と思ったけど、ソカシ先生が引き出しにお酒隠してることしか覚えてないです」
「残念でした。それはもう飲んでしまってありませ~ん」
こういうやり取りができるようになったので、回復が順調ってことか。
「モンじいさんの仕事手伝うのは許可出すけど、無理はしないこと。体がきつい時は、休みをもらいなさい」
ソカシ先生のお墨付きをもらい、モンじいの健康診断結果も問題なしだった。
モンじいと一緒に孤児院に戻ると、子供が数名増えていた。話を聞いてみると、衛星落下地点の周辺ではレアメタル等の資源を狙った採掘を生業とする人たちが多くいるが、同時に汚染物質に触れたり、採掘中の安全面の確保なんてないので、事故が多発している。そのせいで、親が怪我や亡くなるケースも多く街の孤児院だけでなく、カモミールパレスの孤児院を訪ねてくることも度々ある。
ラァム院長が、子供たちに割り当てる部屋の配置換えに苦慮していた。それを見ていたモンじいが、ライトの肩に手を置き、ちらっとライトの顔を見た。
「ラァム院長、ちょっといいですか。今の孤児院状況を見ると、空きスペースを作るためにも、今からでもライトを住み込みで働いてもらおうと思うんだが、問題ないかな?」
「そんな急に出来ないでしょ?」
「ライトの寝床分の広さをライト自身も片付け手伝って作ってもらおうかなって」
「ライトはいいのかい?」
「ラァム院長は大変そうだし、自分があのベッド譲れば、広くなると思うよ」
「ごめんね。追い出すようなことになってしまって」
いずれは孤児院は出る事になっただろうから、流れに身を任せるなら、今なんだろう。
そそくさと、ほんの少しの私物を持ち出し、また来ます、と言って孤児院をあとにした。同じパレス内にいるし、しんみりした挨拶はするべきではないだろう。孤児院側にそんな余裕ないし。
「ライト、オレは、3階に店と住まいを合わせた場所に住んでいる。3階は初めてか?」
「はい、5階以外には行けなかったんで」
今回は、エレベータではなく階段でゆっくり降りた。単純に、下り階段だけど体力作りの意味らしい。
そして、3階。
「看板、多いね」
「3階は、道具作ったり、職人が集まってる場所に自然となったんだ。お互いに、道具を自作して渡したり補いあうのが、双方の技術を高めるようになったんだ。ほれ、うちの鍵屋だ。公衆トイレには近いだろ?」
「部屋の中にトイレないの?」
「今、物置になってる」
「単純に不衛生というか不潔だから、整理整頓に改善活動を要求します」
「おめぇ、子供じゃないだろ?」
「ぴちぴちした、おそらく10歳くらいの子供かもしれない元孤児院育ちです」
「笑えねぇよ、鼻垂れ若年寄。ほら、着いたから、奥の方に荷物置きな」
屋号が『鍵屋』であるモンじいの店舗兼住宅は、ホテルのシングルルームを3部屋ぶち抜いた跡がある、そういう空間。ただし、物が多い。予備の鍵や旋盤の機械、やすり等道具類が無造作に置いてあった。掃除も行き届いておらず、金属片が床に散らばっていたり、どう見てもいらない物が非常に多かった。
「入り口付近は仕事道具ばかりだから、右に行ったオレの寝床周辺を片付けて、ライトの寝床を作らないとどうにもなんねぇな。この寝床近辺に置いてあるのは、何でも道具になりうるから、金属とか拾うと保存しとくんだよ」
「例えば、ゴミが出たらどうしてるの?」
「建物の端に行くと、窓枠のように穴が開けてあるんだよ。そこから、地上まで落ちて、大飯幸のゴミ回収班がしっかり処分してくれるんだ。仕組みは知らねぇが、うまくやってるみたいだ」
「窓自体が封じ込められてるのは変じゃない?換気しなくていいの?」
「換気は、換気扇と在宅時はドア開けてっから、どうにかなる。外窓を開けてるとな、たまにある衛星落下で、すげぇ埃やら、汚染物質が入ってくるから危なくて仕方がない。呼吸器やられて寝たきりも多いと聞くぞ」
「んじゃ、ボクの体弱いのも、そのせいかもね」
「ありえる話だぞ。タオルやマスクじゃ防ぎきれねぇからな、用心しとくのが無難」
ひとまず荷物を置いて、モンじいの部屋を探索することにした。
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