第11話 少年の選択
大飯幸での食堂を出た後、ロビーに戻って、日用品が売ってある商店に立ち寄る。本来の目的は、ここで石鹸等を揃えるのが目的だったそうな。
「ここで、普段使う物が揃うの?」
「そうだよ、孤児院で使うものは、この店で貰っている。寄付代わりだよ」
意識せずに使ってて、誰も説明してくれなかったけど、孤児院の備品が案外揃ってたのは、そういう理由か。
荷物を受け取り、お礼を言って、エレベータの方へ向かう。
来る時にはなかった工事が始まろうとしていた。
「宮建連(宮殿建設連合)が、また何か増設してんだろう」
モンじいが説明してくれた。このカモミールパレス内の電気・水道・増改築等、工事関連を引き受けているそうで1階ロビーの求人掲示板に載っているのは、3分の1は宮建連の作業員募集だそうな。
来る時は人混みで見えなかったが、壁や壁と天井の角の部分に、大量のケーブル類が見事なスパゲッティ状態で絡まりまくっている。各々が必要な工事を勝手にやっているから、こういう結果なのだろう。また、分かる人には理解できるケーブルの色で区別されてるだけマシなのかも。
工事に気を付けながら進んでいる時、それは突然起きた。宮建連の作業中に建物から分岐された電気ケーブルが電動工具の操作ミスで切断され、火花を散らしながら、グネグネと暴れてこちらの方に向かってきた。逃げ惑う群衆に我々は弾き出された。そして、ラァム院長にその暴れるケーブルが、しなりながら接触しそうになった。
「危ないっ!」
咄嗟にライトがラァム院長を突き飛ばしてケーブルの接触を回避した。しかし、ライトにそのケーブルが接触してしまった。
「う゛うぅ」
ライトからは聞いたことない苦しむ声が発せられ、数人がかりでケーブルを押さえつけ、電源落とす処理がされた。
「ライト!」
ラァム院長が叫ぶ。ライトは嘔吐し痙攣していた。宮建連が感電防止の手袋や布を使いながら、担架代わりにして急いで5階のソカシ先生の所へ運ばれた。
背中に火傷の跡があり、感電によるショック状態で意識を失っている。嘔吐物は気道には入っていなかったが、治療は点滴くらいしか方法がない。大した治療のできないこのパレス内では、それが限界である。
泣き崩れるラァム院長とそれを支えるモンじい。宮建連も心配そうに見ているが、何もできない。やがて意識が戻るのを期待するしかなくて、一旦、それぞれの場所に戻っていった。
心電図の音が響く中、気付けば、ライトの体を見ている自分がいた。
「あれ、体から出ちゃってる。また、モヤのような気体として漂っているじゃん。ライトォ、また死にかけてんのか?」
心電図の音はしているので、心臓は動いている。
「また、こんな目に会っちゃったね。今回は、人助けからの事故だけどさ。がんばってきたのになぁ」
ライトの体に近寄り眺めて、話しかけていた。
「あのさ、ライト。ライトの体の中に、自分が入っちゃって、すげぇ孤独の中、いろいろ試してきたけど良かったのかな?楽しんでくれたかな。何度となく生死の狭間にいて、それでも他のモヤな存在が来なかったから、自分が収まってたけど逆に苦しめてるのかって、申し訳なさでいっぱいだったよ」
自責の念を切々と語っていると、何か気配を感じた。円柱状の光が降りてきて、その中に、別のモヤ状の存在があった。
「そうか、交代する番なのか。そうだよな、不甲斐ない中身より、他の候補だろ」
ライトの体から離れ、別のモヤに譲ろうとした時、豪快に引っ張られ始めた。
「何よ、次の候補モヤに変わるんじゃないのか? その捻り込む吸引力は、どこから来てんのさぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「ガハッ、ゴホゴホ、ゲェハッ、ガッガッ」
ライトの体が激しく動いて、慌てて医療スタッフが押さえ出す。
「ライト!分かるか?病室にいるんだぞ」
声をかけられるが、まだむせる。じわじわと体の痛みが感じられる。
「ん゛~、あ゛~」
さっきまでライトの体から離れてたのに、また取り込まれて一体になったのか。ライトよ、自分でいいのか?他のモヤである候補がいたんだぞ。
「・・・選んでくれるのか?」
そう思ったら、自然と涙が流れていた。
「おーぃ、痛いか~。意識戻ってみたいだな~。」
んだよ、痛みで泣いてんじゃねぇよ。ライトが、『もうちょい、自分というおっさんを選んで、過ごしてくれる』ってとこだろうよ。君たちには分からぬことだろう、この病弱な体に別な存在がお邪魔してて、アレコレと心身不一致な葛藤をしているってのに火傷等の痛みで泣くのは、ほんの少しだよ!ライトの体におっさんが留まることを許可してくれたのは、すげぇありがたいことだ。
それから、さらに涙が止まらなくて、鼻が詰まって大変だった。さっきまで意識なかったのに、呼吸が出来なくなるから『泣くんじゃねぇ!』ってガーガー言われ続け、起きようとすれば、また叱られ。
結局、入院3週間。病弱なんで、絶対安静ですって。絶対安静でも、面会謝絶じゃないので、知ってる顔ぶれが様子を見に来た。皆が気にしていたのが『また、記憶が無くなっているのでは?』という点。とぼけてみようかと思ったが、大人たちの心配っぷりに、とてもふざけられない。冗談すら通じない深刻さがあった。それだけ、ライトは生死の境に立ち過ぎてたからね。
退院して、隣の孤児院に戻り、自分のベッドに横になっていた。以前とは違い、ようやく体が使えそうな感覚になっている。
暇だからか、また、考えてしまう。
『自分がライトの体を拒否していたのか、ライトが自分を望んでいなかったのか』
以前なら、胃が痛くなるくらい考え込んでいたが、お互いを認識しあっているのか、心身不一致の強い違和感がない。双方が、いや、自分が考え過ぎて、ライトを困らせていたのでは、と思っている。
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