第7話 こっそり探検
数日寝込んで、点滴までは打たなかったけど、体の弱さを身にしみた。少しずつ体力をつける必要がある。風邪引いただけでも、重症化してしまうだろう。しかし、関節の柔らかさがあるのか、蹴ったり、体当たりした部分はさほど痛みがなく、打撲や内出血のような跡もなかった。
起き上がれるようになり、少し動いてみる。かといっても、トイレの往復くらいしか行ける場所がないんだが、孤児院の子供たちは、距離感がある。ラァム院長は、その立場からか、一応、接してくれる。病弱だし放っておくと、また倒れちゃうかもしれないからな。しかしさ、居心地が悪い。こちらから皆に謝ったとして、原因は、あのバカ二人なんだけど騒ぎを大きくしたから言うべきなのか?言ったところで、何か変わるわけでもないんだよな、多分。
結局、また階段近くの窓の下に座り込んで、文字を覚えるため書く練習をする。元は、どんな子だったのかな、ライト君よ。別人になっていいのかな。
「また、書いてんの?」
リア姉ちゃんが声をかけてきた。
「うん、部屋が居心地悪くなって。文字も早く覚えたいし」
「孤児院を出たいって思ってるの?」
「体弱いから、まだそんな事は考えられないよ。あのね、聞いていい?」
「どんなこと?」
「以前のボクは、どういう過ごし方してたの?」
「入院する前のライトはね、あまり声を出さなかった。ボソボソっとしゃべるし、聞き取れなかったし。それに大体、熱出してた」
「他には?」
「ん~、分からない。子供だけの移動許可が出ないから、パレスの外に行けないし、やっぱりライトは寝込んでたし」
「何にも興味を持ってなかった?」
「病気治すのに精一杯だったと思う。今みたいに、文字覚えようとかしなかったよ。別人みたい」
あは~、と苦笑いして、誤魔化した。そして、最後にまた質問してみた。
「この場所というか、何という国だっけ?」
「そういうの分かんない。大人に聞きなよ。このカモミールパレスと近くの3つの街くらいしか知らないよ」
やはり、孤児院だけでは限界か。話が聞けそうな大人を探すしかないのか。
少し熱が出そうなだるさがあったので、孤児院内の部屋に戻った。そして、また考える。
『やはり、食事を取って栄養分の補給して免疫あげないとな。でも、この子は、食が細い。病気がちだから仕方ないけど少しずつ内臓も鍛えていかないと、今後の行動ができなくなる。情報が必要なんだよ』
考え込んでいると、うたた寝していた。そこに、配給が来たようで、ラァム院長から起こされる。
「ほら、ご飯の時間だよ」
目をこすりながら行くと、マンプクがいた。
「よぉ、ライト。熱は下がったのか?」
「微熱です」
「そうか、腹減ってねぇか?しっかり食えよ」
大食いしても吐くだけだろうから、しっかり噛んで消化吸収が良くなることを努力した。食べるのが遅いと言われても、よく噛んで胃の負担がかからないように気をつける。そういう日々をしばらく過ごした。
他の孤児たちが農園作業に行っても、ライトには外出許可は出なかった。ずいぶん、熱が出ることはなかったがおそらく、外の環境は厳しいのかと、勝手に察して大人しく孤児院にいた。ラァム院長も農園なので、パンが昼食だった。
んふ、独りの状況でさ、大人しく孤児院にいると思う?体力作りも兼ねた自由な時間。筋トレをするんじゃない。このカモミールパレスって場所の行動範囲を広げ、把握したいのさ。上階の娼館付近は危険地帯の匂いがするので、もちろん避け。・・・今はね。
今いる孤児院の階層は、おそらく住居エリア。照明は、それほど明るくない。いつも右側にしか行かせてもらえなかったので左側に行ってみる。相変わらずの足音を立てない歩き方で、スッスッと進む。
「あれ、案外距離あるな」
孤児院が端っこの方にあることに気付く。天井や壁を見て、大きな建物が増設されていることが理解できる。子供の足で5分歩いても、建物の端に行き着かない。同じ階なのに、どれだけ改築したのか?というくらい長い。さらに歩く。ようやく、窓が見えた。他の窓があるであろう部分には、木材を使って、窓を覆い隠してあって、薄暗い照明しか光源がない。
見つけた窓から、外を眺めてみた。
「かなり遠くに、ドーム状の建物がある。少し草原っぽいのが見えるが、肉眼では限界か」
独り言を言いながら、探索する。しかし、人にすれ違わない。働く時間だからかな。
ふと気付く。正確な時間が分からない。時計がないんだ。勝手な行動がバレるとマズかろうと思い、戻りながら部屋数を数え孤児院に戻る。そして、拾った数枚の紙に覚えた言葉で、記録を残していった。
また気付いたことがある。スラム街だと思うんだが、案外掃除が行き届いている。清掃担当がいるのだろう。掃除される前に使えそうな紙があったら、入手しておこう。・・・しかし、この体の疲労具合はしんどいな。あの程度の探索で、しっかり疲れる。やることないにしても、この探索は、体力増進というやつだな。靴を脱いで、ちょっとベッドに横になると、いつの間にか眠っていた。
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