第6話 初めての共同作業

 周囲が静まり返った。楽しみが少ない中での、貴重な食事である。その器の中に、靴が投げ込まれた。


「何してくれてんだよ、飯に対して失礼だろうがぁっ!」


 激怒のマンプク。ペケパーとセコヌシの二人を壁に立たせ、怒鳴り散らす。しかし、二人組はヘラヘラしている。ライトの邪魔ができたことで、満足しているのだろう。


「この野郎!」


 マンプクは殴りかかろうとするが、数名のスタッフが、子供相手なので必死に抑えようとしている。


「早く謝りなさい!」


 ラァム院長も二人に対して促しているが、どうにも謝る気配はなく、大人たちが怒り興奮しているのを煽り楽しんでいる。

 私は、どうしているかと言えば、器とその靴を見ている。また、考えている。

 よく分からない世界に来て、子供の体に取り込まれて、その体の人物は、嫌がらせを受け、とても醜い光景を見せられ、自分はこの体を守りたいんだが、すでに危険な目に合わせている。申し訳ないな。申し訳ないことをしているな。


「なにか言ってみろよ、ライト。さっきみたいに、わけの分からない言葉で言ってみろよ!」


 おお、まだ煽るか、バカ二人組よ。マンプクの制止も限界に達しそうなのにさ。


『ん~、考えようによってはさ、現世じゃないんだよ。もう別の世界であって、このライトの体を強くするのもその現場に合わせないといけない。暴力は何も生まないが、身を守るためには、やらないといけない世界に来てしまっていると思う。ライト君よ、協力というか、共同作業というか、おっさんが知る攻め方をやってみようか。生きてた時にやったことはないけどね』


 ペケパーとセコヌシが、マンプクとラァム院長に、まだ煽りを入れ、他の子供達はオロオロしている。

 自分は音を立てず、静かに席を立つ。そっと、機会を伺う。


「離さんかぁ!」


 マンプクが暴れる反動でスタッフといっしょに動いた。それに驚いたラァム院長が身を引いた。なので、二人組の前がガラ空きである。

 足音を立てず、身を振りかぶるとか余計な動きをせず、すーっとペケパーの前に近づいた。


『やってみようか、ライト!余計な力を入れずに、体全体を使おう。筋力勝負は負けてしまうから、体の重みをぶつけよう』


 正面に立つペケパーの右膝に、歩く感覚でライトの右かかとを刺すように突き出した。


「痛ぁぁぁぁぁ」


 しゃがみこむペケパーの顔めがけて、再び歩くようにライトの右膝を押し出した。


「ウゥゥン」


 倒れるペケパー。それを呆然と見ているセコヌシに対して、ライトは、少ししゃがんで左足で床をしっかり蹴り、体の右側面を相手の腹部~下腹部辺りに、ドンと体当たりさせた。押された勢いで、壁に頭を打つセコヌシ。


 痛みで泣き出す二人組。・・・まぁ、周りの人々は、ドン引きですよね。そりゃ、そうだ。


「その体で、よく出来たなぁ」


 驚いているマンプクが言った。マンプクの方を向いていると、衝撃がきた。バチィィン!


「何をやってるの!乱暴はダメでしょ!」


 ラァム院長が、ライトの頬を叩いた。


「あの状況で自分が行かなかったら、この二人組はもっとひどいことをしていた。それに、マンプクさんが手を出すことになった。誰も止められなかったでしょ!その二人は、何かを理解できる存在ではない!」


 こちらとしても、我慢してもしょうがないので、意見は言わせてもらう。この意見が来ると思わなかったのか、ラァム院長が唖然とした表情をした。


「おいおい、何事だ」


 最初のマンプクの怒鳴り声で、人だかりが出来ていた。さらに、自警団と呼ばれる白いツナギを着た人が続々と集まっていた。


「自警団のプコンです。何事ですか?」


 どうやら警察という組織がないようで、トラブル対処に自警団が発足され、通報が行くようだ。


「悪ガキ二人が、飯を台無しにしたんだよ」


 マンプクが説明をし、大飯幸スタッフも同様に状況説明をしていた。他の自警団に抱えられるペケパーとセコヌシは、ライトを指差して


「アイツにやられたんだ」


 と叫ぶ。それに対してマンプクが、ビリビリと響く声で言った。


「お前らが原因を作ったんだろうがぁ!飯を侮辱しやがってぇぇぇ!」


 泣き出す子供たち。普段のマンプクからは、想像できない形相だしなぁ。


「この二人は面倒見きれないから、自警団で保護観察してもらえませんか?」


 ラァム院長が、とても疲れた声で言った。さすがに、しょんぼりした顔の二人。


「さぁ、帰った、帰った。もう終わったぞ!」


 自警団が、野次馬を帰らせている。孤児院内も片付けが行われているので、邪魔にならぬよう一旦通路に出た。良かれと思ってやったことが、なんとも後味の悪い状況となり、うつむいていると声をかけられた。


「急所を狙った良い攻撃だった。その細い体で、人を飛ばしたからな」


 照明のせいか、赤黒い服を着ているように見えた。細マッチョな男性。続けて話しかけられた。


「名前なんていうんだ?」

「ライトと呼ばれてます」

「なんだそりゃ?呼ばれてるんなら、名乗ってしまえ。なぁ、ライト。オレは、ヤガミだ」


 そう言うと、闇にスーッと消えていった。それを見たマンプクが慌てて近寄ってきた。


「さっきのヤツは、何を言ってきた?」

「ケンカを見ていたようで感想を言ってきました。ヤガミというそうです」

「それだけか。アイツは、元自警団だから気になったのかもな」


 この事件の後、ライトは熱を出して数日間寝込んだ。精神疲労だよ。

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