第4話 孤児院

 医者のソカシ先生に連れられ、病室の隣である孤児院の部屋に案内される。


「あ、ライトじゃん」


 どの子供が言ったか分からないが声をかけられ、孤児院の院長らしき人が近づいてきた。


「ソカシ先生、お世話になりました。その後の体調はどうですか?」

「ラァム院長、感染症からは回復してます。体力を少しずつ戻していく状況だと思いますよ。ただですね・・・」


 ちらりと、こっちを見るソカシ先生。眉間にシワを寄せながら、話を続けた。


「ライトは、記憶を失ってます。記憶が戻るかどうかも、ここの設備じゃ調べようがない」

「え、記憶が?」


 それを聞いた子供たちが集まってきた。


「なぁ、ライト、俺たちを覚えてないのか?」

「私は、覚えてるよね?」

「いっしょに遊んだじゃないか」


 子供特有の質問攻めに、正直疲れる。


「こら、お前たち静かにせい!ライトは、病み上がりだ。今から説明するから、座りなさい」


 ソカシ先生が子供たちを制し、話し始める。


「ライトは、いくつかの病気を同時にかかってしまったので、心臓が止まって、復活したんだ。そのせいで、記憶を失ってしまったのだろうと言える。だから、君たちは、改めてライトと友達になって欲しい」

「一回死んだんなら、ゾンビじゃねぇか。ゾンビ野郎!」


 いかにも悪ガキな二人組が叫んだ。


「また、お前たちか!飯抜きにするよ!」


 ラァム院長が叱りつけるが、ヘラヘラした二人組。どの場所でもいるよな、あんなの。


「私のことも思い出せない?」


 今度は、女の子が近づいてきた。ライトより背が高く、面倒見の良さそうな子。


「ごめんなさい。全く分からんのです」

「何、その言い方は? 私よ、リア。前も熱出した時、看病してたじゃない」

「ライト、お前は、リアのことは覚えておけよ。何かと助けてもらってんだから」


 ソカシ先生が言うので、ライトは本当によく病気になって看病されていたわけだ。大変だなぁ、この体は。


「ライト、また説明するから、ついてきなさい」


 今度はラァム院長か。部屋を案内される。ライトの部屋は、運良く悪ガキとは別の部屋で小さいが個室だった。病気がちだから、他人から病の原因をもらったり、うつしたりしないよう配慮されていた。


「何か、思い出せるかい?」


 ラァム院長に促されるが、部屋を見たり、ベッドの感じでは、何も分からず。そもそも、思い出せるのか?そこが疑問。魂っぽいやつが入れ替わってるので、どうしようもないんじゃないのかな。

 さらに、部屋を見ると、カバンがあった。カバンの中身を見ると、懐中電灯と金属片やネジが入っていた。いかにも子供らしいが、この子にとっては価値ある物なのだろう。


「あの、トイレに行きたい。どこですか?」

「室内のトイレは工事中だから、階段近くのトイレを使いなさい。リア~、ライトをお願い~」


 リアに道案内してもらう。というより、病室しか知らなかったので、トイレがどこか知るって重要だ。


「いい?孤児院出て右の道進んで、突き当りの階段の横にトイレがあるの」

「はい、では行くですよ」

「やっぱり、しゃべりが変ね」


 この体でしゃべり慣れてないので、言葉は変だ。しかも、言語が違うのに話が出来ている。


 孤児院の開放されっぱなしの入り口を出て右に進む。初めての建物探訪。なんとも、壁が汚い。薄汚れて相当な築年数だろう。しかし、かなり頑丈そうな壁だ。通路を進むと、たくさんのドアがあるが、開いていない。合わせて、人の気配もない。薄暗い照明の光源しか見てなかったが、通路突き当りに、窓があった。曇ってはいるが、外を見られそうである。


「リアさん、外見てもいい?」

「さん? あんた、リア姉ちゃんって呼んでたから、また同じように呼んで。それと、トイレの後で外は見て」


 曲がり角に階段があり、男性用トイレに入り、用足し。・・・見た目が『男の子』という確認ができました。洗面所の鏡を見て、顔立ちは素朴そうだけど、青白くて、病み上がりなのがよく分かる。しかし、久しぶりにトイレ使ったな。入院中は尿瓶だから、出しにくかったんだよ。

 トイレ外で待っててくれたリア姉ちゃんに連れられて、窓の方へ進む。


「ほら、見てみなよ」


 どうにか見えた外。初めて見る景色は、なんとも乾いた場所のように感じた。山が見えるが木々が無く草原っぽい感じで緑は少ない。


「ここってどこなの?」

「本当に覚えてないのね。ここは、カモミールパレスって呼ばれてる建物の中。昔話も覚えてないんだろうなぁ」


 外を眺めていると、ギャアギャア騒ぐ声がして、後ろからライトのズボンを下げた。


「ヒャヒャヒャヒャ~、ゾンビ野郎~」

「コラ、ペケパー!セコヌシ! ダメでしょ!」


 悪ガキ二人組のいたずらだった。


「あの二人って、前からボクに悪さしてたの?」

「あいつらは、誰でもいたずらしてる。ほら、ズボン上げなきゃ」


 景色を見てたので、リア姉ちゃんにズボンを上げられた。しっかり股間を見られたので、恥ずかしくなりライトの体に申し訳なく思った。同時に、体と精神がまだ不一致であり、ライトの体を気遣ってしまう他人としての感覚がある。ずっと消えないと思うよ、ライトと入れ替わったんだけど、奪ったような気持ちでいることは。

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