第3話 ボクは誰?
どうにか一命を取り留めた少年の体に、自分が入った(引っ張られた)んだが、蘇生後、意識を失っており、どれくらいの時間経ったのか、よく分からない点滴を受けながら病室に寝かされていた模様。
「おい、分かるか」
声をかけられて、うっすら目を開ける。
「熱が下がってきたから、もう大丈夫だろう。食事も持ってくるから」
朦朧とした状態なので、相変わらず、何がなんだか分からない。ただ、病院にしては薄暗い。清潔感がない気もする。そもそも、この少年は、どんな病気だったのか。考えていると、眠っていた。
「おーぃ、腹減ってねぇか?」
男性の太い声がする。声の方を向くと、まぁでっかい男性が立っていた。白いエプロン姿で、いかにも料理人の格好。パクパクと口は動かせるが、どうにも声が出ない。点滴がまだあるので、両腕も動かせず、ジェスチャーも出来ず。
「声が出ねぇか。スープでも飲ませてやろうか」
ゆっくりと体を起こしてもらうが、首が座ってない赤ちゃんみたいに、ぐらりと頭が持っていかれる。
「こりゃ、大変だなぁ」
体のいろんな所を押さえてもらいながら、スープを飲ませてもらう。コンソメのような香りがあって、口の中から香りがまた鼻の方に広がっていき、深みのある味わいが舌を通って喉に流れていく過程が、細胞が蘇る旨味の塊のようで、自然と涙が流れた。
「熱かったか?」
料理人が心配するが、頭を横に振り、さらにスープを飲ませてもらった。液体であっても、何日振りか分からない食物が少しずつ少年の体温と指先まで活力が行き渡る感覚が伝わる。ようやく声が出せるかなと、思ったんだ。
「この子さ、しばらく心臓止まってたんだよ。無理かなと思ってさ」
「何の病気なの?」
「元々、病気がちで、食も細くて。よくある感染症でも、この子にはかなり危険だよ」
医者と料理人が、目の前でそういう会話をしていた。
「しっかり食えよ」
料理人のがっしりした腕で、体を支えながら言われる言葉に、また涙が出ていた。
さて、思い切って聞いてみますか。
「ぁ、あの、ボクは誰ですか?」
医者と料理人が、ギョッとした表情で自分を見るんだ。『何言ってんだ、コイツ』となるよな。
「何も覚えてないのか?名前もか?」
医者が聞いてくるので、この少年のことを聞き出してみようかと思う。
「自分が誰だか分からないし、ここも何だかよく分からない。思い出せないんじゃなくて、何も知らない気がする」
「はぁ~、一時的なショック状態で済んでくれればいいがなぁ」
医者は、料理人と顔を見合わせ、少しため息をついた。
「お前はな、『ライト』と言うんだ。この病室の隣の孤児院で生活している。お前が保護されたのは6~7年くらい前で、このカモミールパレス内の暗がりで、懐中電灯持って立ちすくんでいる所を保護されたんだ。その時も、言葉が出なかったから名前が分からずに、懐中電灯持ってたから、『ライト』と皆が呼び出したんだ」
「すみません、全然思い出せないです。ボク何歳かも分からないってこと?」
「そうだな、保護された時もいくか分からないからな。多分10歳くらいだろな」
ちょっと重い空気になった時、料理人がしゃべりだした。
「おい、オレのことも思い出せないか?料理人のマンプクだ。いつも孤児院に食事持ってくるだろ」
「ごめんなさい、分からないです」
「それなら、自慢の料理を改めて食べるわけだ。また、感動に震えるだろ」
すんごい笑顔で言ってくるマンプクに対して
「さっきのスープで、もう感動したよ。すげぇって」
そう返事をしたら、豪快に笑ってくれた。
「よし、よし!味覚が無事な証拠だ!少しずつ量を増やして、体力戻して、オレみたいになれ!」
「お前さんは、食い過ぎだ。この医者であるソカシの言う事を全く聞かぬ」
医者も会話に入り、場の空気が和んだ。
この少年は、ライトというのか。まずは、体力回復を手伝って、少年に光を当てないと。
その後、ライトの体をどうにか健康体にしたいと思い、まずは呼吸から始めた。まだ退院許可はでないので、しっかりと空気を肺に入れ、ゆっくりと吐き出す。とにかく、これを繰り返す。とても呼吸の浅い体なので心肺機能を高める意味でも、生命維持には呼吸が大事なんだ。ひたすら呼吸に集中して、喉が渇けば、あまりキレイとは
思えない水を飲み、呼吸器内の湿度を高める。
そして、まだ立ち上がれないので、手足の指先をしっかり動かして、末端まで血液が巡るよう心がけた。
さらに、頭頂部から足裏まで、光が流れるようイメージを繰り返した。気の概念っぽいことなんだけど、そういうのでも取り込まないと、このライトの体は弱いので、やれることは何でもしてみて、体の細胞が活性化し免疫を上げることをとても意識した。
それから、ソカシ先生の予想を裏切り、入院3ヶ月予定を1ヶ月半で退院の許可がおリた。
「この薬も十分に与えられない環境でどうしたの?ライトは別人になったのか?」
「マンプクさんの食事じゃないですかね。滋養強壮に良い部位でも食べさせてくれたんじゃないですか?」
「"滋養強壮"とか難しい言葉よく知ってんな。やっぱり、別人だな」
「死んで蘇ったので、別人でしょうね。"ネオ"ライトに名前変えましょうか?」
「調子に乗んな、若年寄」
奇妙な者を見る目をされながら、診察が終わった。孤児院か。また、イチから人間関係構築だけど、周囲の子供に合わせるって、難しいだろうな。身構えちゃうよ。
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