教室暴動パート
第3話 転校生は悪魔!?
「クックック……ついに俺にも能力が……」
自身の通う2年1組の教室に入ったアクトは一番後ろの窓側の席で1人机に突っ伏し、ニヤつきを押さえていた。
ヨルカと別れ朝のホームルームの時間待ちとなっている。昨日のテレビを見たかなど友達同士で和気あいあいと談笑する生徒達の中、アクトは誰とも話さず、声をかけられることなく背景に溶け込みながら過ごしていた。普段の彼なら退屈しのぎに読書をするか、こことは別の脳内世界へ旅立ち思い耽っている時間だが、今朝はそれどころではなかった。
「さて、まず先に何をやる? 学校を占拠する……いや、日本を手中に納めるのも悪くない……むしろアメリカも……いや、まず技名を考えて……」
ブツブツと顔を伏せ、瞳孔を開きながら彼は膨らむ妄想を口からおさえられずに呟いている。
「はい、席に着けー」
教室に担当教員が入り皆が席に戻って行く。いつもなら、すぐに号令が始まるのだが、教室がざわつき始める。
雰囲気に気づいたアクトも顔を上げると、担任と並んで見知らぬ女子生徒……いや、制服ではなく完全に私服の女子が立っていた。色白黒髪にピンクが入り交じるサイドテール、濃い目のアイラインやらまつ毛をキラキラ光らせ化粧武装した爆速で校則を違反する娘が登場する。
「ちわー! 元気してっか人間どもー!」
ギャハハとギザギザの歯とフルーツケーキのようにカラフルで鋭利なつけ爪をジャラジャラと見せつけ愛想が良さそうに皆へ笑顔を向けていた。注目が集まる中、担任が気にせず口を開く。
「それじゃあ、今日からうちに転校生がきたから自己紹介よろしく」
「うぃ!」
世紀末のような女子生徒(?)は明るく返事し、長い爪でどうやって綺麗な字を黒板に書いているのか仕組みがわからないまま自分の名前を書いていく。書き終えた彼女は皆へ向き直りまたサメのような笑顔を振り撒く。
「しけたツラした野郎共こんにちはー! 地獄から登場
クラスの皆が沸き立つ。
あの見た目でも突然の美少女転校生に男子も女子も盛り上がりが尋常ではなかった。
1人以外は……
「やはり底辺高校……もはや校則すら全員忘れ去ったか? フッ、世も末」
っと、一番まともな反応をしつつお前が言うなを成立させるアクトは明らかに違和感しかないパンクロック女子高生への質問タイムへ耳を傾けずにまた机へ突っ伏す。
「シールの数は間に合うか? いや、代替えが必要になるだろうな……ならまずセロテープで代用は……」
また1人の世界へ溶け込んでいく。
「そうしたら、小菅さんは押江の隣の席に座ってくれ。一番後ろの空いてる席ね」
「うぃっす!」
質問タイムが終わり、小菅リリはアクトの所へ近づいていく。彼の隣の空いている席に座り椅子を引くと、彼女は話しかけてくる。
「押江アクトおまたー! 元気しってか、おい!」
「いや、そうじゃない……コキュートスに教えによれば、これは技名は……」
リリが声をかけるが、一向に自分の世界から戻って来ないアクト。リリは笑顔で、覗き込むようにもう一度声をかける。
「おーい聞いてっかアクト?」
「寝ている」
「寝てないじゃん! アタシのこと無視してんだろがい!」
「要件は何だ」
一向に頭を上げないアクトに、リリは自信の顔を押さえる。
「かぁー! あのさぁ、普通質問しない? 何でフルネーム知ってんのとか? 校則違反してるのに誰も注意しないのとか? おまたーってどういうこととか? あ、ウチのパンツ見る? 今日はちょい気合入れてきたから可愛いのはいてきちゃった!」
「興味ないね」
「パパパンツに興味ない!? オオオエ⁉」
リリは驚くが、すぐに表情を変えニヤリと笑う。
「あ~あ、せっかく気持ちいい思いをさせてあげてから殺してあげようと思ったのにな~」
「何!?」
唐突な殺害予告に突っ伏していたアクトも首だけ彼女の方へと向けた。さっきまで人懐っこそうな印象とは裏腹、リリは足を組み、頬杖をつき、女王のような鋭い目線、そしてトラバサミで獲物をとらえたような狂気の笑みを浮かべる。
「その態度、ムカつくからすぐに殺しちゃおっかな~?」
「貴様、何者だ!」
「何だよ、殺すって聞いたらようやく慌てちゃって、でももう遅いょー。押江アクトは悪魔召喚の代償により命を捧げなくてはいけないの。自分がやったことなんだからわかっているっしょ? 対価をもらいに来たってわけ!」
「クッ……まさかこんなにも早く刺客が来るとは!」
「後悔しても無駄! さあ、アタシに絶望で歪む表情を見せやがれー!」
アクトはどことなくニヤついている。
リリがアクトの胸に手を当てる。特に魔法のような効果エフェクトは出てこないが、アクトの表情が苦痛に歪む。
「ぬわああああああ!」
「……ん?」
「血が……血が吸われていくうううううう!」
「ん? んんん?」
「ク、クソ! 今、俺の中に流れる伝説のデビルサモナー血と貴様の魔力が干渉しあい、相互作用でぶつかり合いが起こっているのか!!」
「ウッセェよ! これ献血とかじゃなくて生命エネルギーを吸うやつだよバカ! っていうか吸えてないし!? 何で!?」
「うわああああああ!」
さっきの威勢とは変わり、おろおろと困惑するリリ。しかし、アクトはまだ悶え苦しんでいる。
「ふんぎゃおおおおおお!」
「だからうるせぇ! お前今効いていないんだから痛くねぇだろが!」
リリが手を離すと、アクトは荒い息で片膝をつく。
「ハァ……ハァ……貴様のブラッドドレイン、中々の威力だ。お前の実力を認めるしかない」
「だから血を吸ってないから! なに耐えきったみたいな顔してんだよお前! やられたフリすんな腹立つわーもー!」
そういうと、アクトは口元をへの字にし真剣な表情で彼女を指差す。
「……お前、人が自分の作った設定に乗ってくれたのにその反応は何だ? 失礼じゃないか? そこは話を合わせるのが筋だろ?」
「はぁ!? 何でアタシが怒られるの! 意味わかんな! アタシは本物の悪魔!」
「そう! お前は悪魔! 俺が召喚したベルゼブブ!」
「ちげぇよ! ハエじゃねーよ! リリだよ! リリ!」
「あーそっちの方か! すまないなリリス! ハーッハッハッハ!」
リリは頭を抱え首を横に振る。
「あー、もうどうでも良いや……とにかく、今からお前を殺さないと……」
「ん? 様子がおかしい……さっきから俺達が騒いでいるのに生徒どもがこちらに関心を持ってないぞ?」
「いや、それ今? 最初から私の姿とか皆つっこまなかったっしょ? アタシらに興味を持たなくする魔法使ってるだけ。だから気にすんな」
アクトが席を立ち上がり、リリも立ち上がらせ後ろに下がらせる
「まずい……別の能力者から攻撃を受けている可能性がある。リリ、後ろに下がれ!」
「あの聞いてた? これアタシがやってるって10秒前に言ったよな?」
「フッフッフ……何だ貴様も能力者だったのか。ここは協定を結ぼう、俺もシールを貼った物を大きくする力だ」
「うん、それアタシがあげた能力ねバカアクト君」
「アクト君ではない! そう言えば自己紹介してなかったな。俺の名は……」
「いや、知ってるから! 最初にフルネームで呼んでたでしょ! 名前教えてないけど知ってる謎転校生キャラしてたっしょ! 契約で名前書くことになってるから! それで嫌でもお前の名前はわかるから! 押江アクトだろ!」
「違う! それは表世界で使う記号! 俺の誠の名は――」
アクトが言い掛けたその刹那。
教室の窓ガラスが割れ、中に人間のような何かが複数体入ってくる。
「「きゃああああああ!?」」
教室内では悲鳴が聞こえ皆がその物体から逃げるように離れる。
人間のような存在は頭を上げる。
そうすると下は学校の制服姿の人間だが、頭の部分が違う……
「ウキキーッ!」
顔が真っ赤で灰色の体毛に覆われた日本猿になっている。
猿人間だ。
「あーもうウザ! グダグダやってたら何か変なこと始まっちゃったじゃん! もう良い? アクトのこと物理的に殺して良い? アタシ早く帰ってようやく届いた推しの円盤みたいんだけど!」
「騒ぐな! 俺の名は……デビルサモナー」
アクトはゆっくりと、どこぞの特撮ヒーローの変身シーンのようなカッコイイポーズをとり。
「マスター・アクトだあぁぁぁあ!」
混沌と化した教室にその名を轟かせる。
リリ以外は聞いていない。
「もういい、殺すわ」
リリは満面の笑みを浮かべ、手をアクトの前に掲げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます