ヒーロー その⑥
「…………マジであんな土壇場の言い訳がうまくいくとはな」
そうして会場の陰から一連の様子を俺、花坂形離と一緒に見ていた松本さんは奇妙なものを見たような顔でそう呟いた。
「アイツにはこういうのが向いていますから」
「人を洗脳して言う事を聞かせるのがか?」
「ハイ」
あらためて他人から指摘されると、腐女子の碌で無さが際立つ。
「けどこれで宇宙人の居場所がわかります」
「いや、まだその宇宙人が遊園地内にいるかどうかわからないだろ」
そう言って松本さんは難しい顔で腕を組む。
「フフフフ、そこは心配しなくていい。今この遊園地と外の世界は隔絶されていて、外に出るのは誰であろうと不可能だからね」
とそこへ上機嫌な腐女子が舞台裏へと帰ってきた。
「……隔絶って、アンタ一体ナニしたんだ。というかそれ一般客も出られないってことか?」
難しい顔からさらに渋さを足した顔でそう呻く松本さん。しかしその言葉には興味を傾けず、腐女子は俺の方にだけ顔を向ける。
「それで? ここまでお膳立てしたんだ。宇宙人が見つかるのは時間の問題だろう。そこからは形離の頑張り次第だが……勝算はあるのかい?」
それは人間である自分に、あの宇宙人を倒せるのかという当たり前の疑問。
「なくても倒す。俺の全部を使ってでも」
勝算とか知るか。俺は我が子と佐藤さんを助け出す。それはもう決定事項だ。
「それより松本さん、無茶な予定変更をパーク側に伝えていただいてありがとうございました」
深刻そうに頭を掻いていた松本さんは、俺の声で我に返ったかのように顔を上げる。
「気にするな。ここのオーナーは元々形離、おまえのファンだ。というかこうしておまえがここにいるのも元をただせばオーナーの我儘……強い要望のせいだからな。多少の融通は聞いてくれる。寧ろ嬉々としてショーのプログラムの変更を受け入れていた」
「はぁ」
俺のファンなんていう幻、実在していたとは驚きだ。だがここは利用できるものは素直に利用させてもらおう。
「じゃあ例の件も、何とかなりそうですか?」
「……オーケーだと。頭おかしいぞここのオーナー」
よし、ピースは着実に揃ってきている。
「じゃあ俺も探しに行ってきます」
「なに? その必要はあるまい。どうせニンゲン共がいずれ見つけるぞ?」
腐女子がキョトンとした顔をして俺を呼び止める。
「ジッとなんてしていられるか。俺も探す」
この一大事に、俺だけのほほんとこの場になんていられない。
そうして会場から俺は駆け出した。
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