ヒーロー その⑤
時間は午後三時五分。本来であればワクワクパーク開園十周年記念特別ヒーローショーが開始しているはずの時間である。
しかし会場にヒーローは現れない。
ヒーローを見ようと集まった子供達とそれに付き添う保護者達は、皆一様に顔を見合わせる。
どうしたんだろう。まだはじまらないのかな。ねむい。ほらほら、もう少しだからお利口さんで待ちましょうね。そういえば今日のヒーローショーのヒーロー、なんか古くね、確か五年前に流行ったヒーローだろ。あらあなた知らないの。なんでもここのオーナーの娘さんが、そのヒーロー番組にゲスト出演したことがあるらしくてね。その関係でこの遊園地の記念日には必ずそのヒーローショーを開催するようになったんですって。へぇ、随分親バカなオーナーだな。ほんとねぇ。
そんな様々な声が屋外の会場にこだまする。
するとその会場に、やっと一人の人型が現れる。
それは司会を務めるお姉さん……ではなく、別のナニカだった。
いやその場に現れたのは、確かに見た目は人間の女性ではあった。
けれどその身に纏う雰囲気がまったくの別物。
いつものお姉さんが明るく元気を振りまくお姉さんなら、今現れた女は暗く狂気を振りまく、そんな存在。
どっかのあやしい宗教の教祖みたいな女性だった。
子供も……それどころか保護者である大人もみんなざわついた。
一体今から何が始まるんだと。
「え~、これからみなさんには殺し合いをしていただきます」と言っても不思議じゃない。そんな緊張感。
そうして皆の視線を集めていたその女は、やっと口を開いた。
「え~、これからみなさんには」
まさかの想像が現実のものに。そんな悲鳴を上げようとした人々、しかし、
「悪の宇宙人と戦ってもらいます」
そんな、微妙に想像とは違った言葉を吐いたのだった。
「「「「え」」」」
会場中の声が重なる。
「実はこの遊園地内に、巨悪の宇宙人が隠れているんだ。それを君たち下等生物……失礼、みなみな様に探してもらいたくてね」
「「「「……え」」」」
またも会場中の声がはもる。
けれど次第に「なんだ、今日はそういう形式のショーなのか」という理解が広がる。
パーク全体を使っての観客参加型のショー。
ほうほうなるほどナルホド………………なんだか凄い楽しそうだゾ。ああ、そうだ、ゼッタイに楽シいに違いナイ。ハヤクハヤク、宇宙人ヲ見ツケナイト。
そうして各々それぞれ勝手に己の答えに満足し、次の指示をその女から出るのを待つ。
そこに疑問は一切挟まず……まるで教えを乞う信者のように。
それとも洗脳された憐れな被害者とでも言うべきか。
そんな彼らの様子に黒い女はニンマリ笑う。
「宇宙人の特徴は顔面がカニとタコが交尾中みたいな顔だ。服は金色。肌はペンキ塗り立てみたいなピンク色。一目でそれだとわかるだろう。そして見つけたら、大声で「宇宙人見つけた」と叫びたまえ。そうすればワタシが感知……スタッフが確認する。そしたらお待ちかねの形離……ヒーローが遅れて登場というわけだ。フフフ、ウケるね」
何が面白いのか、女は口元に手を当て笑い続ける。
「「「「ワカリマシタ」」」」
そうして説明を受けた人々は、あんな拙い説明しか受けていないのにも関わらず、まるで働きアリのようにワラワラ動きはじめた。
その目はどこか洗脳された愚者を思わせるものだった。
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