2-3 観光!観光!事件!? 前編
創造神ファルマと出会い、何やら難しいことを言われた私の心は……
晴れやかだった!!
――分からないこと考えたって仕方ないよね!神様も時が来れば分かるって言ってたし!今はとにかく観光だー!!!
「アランさん!屋台通りに行きましょう!」
「倒れたばかりなのに、休まなくて平気かい?」
「ええもう全然!全くもって問題なしです!」
アランの心配なんてよそに、トワは異世界料理のことしか考えていなかった。
――さぁさぁどんな料理が出てくるか!オークの肉とかあんのかなー?
もう待ちきれない。何といってもファンタジーな食べ物、見たことの無い食材のオンパレードだ。神殿で予想より時間を使ってしまった、と焦るトワはアランの腕をグイグイと引っ張って行く。
「アランさん!あの吊るし焼きされてる紐みたいなのはなんですか?」
「あれは……サンドスネークだね。
ここよりも西にある砂漠に住む蛇で、獲物を砂や石と一緒に丸呑みにするんだよ。食べてみるかい?」
「ぜひ!」
そんなサンドスネークの丸焼きは、トワの腕位の長さ太さで、一本銭貨三枚というかなりの安さだった。
なぜこんなに安いのか理由を聞いたら、砂漠に大量にいるから、だそうだ。取っても取っても沸いて出てくる蛇。その砂漠の食物連鎖はどうなっているのか。
そんなことはともかく――
「いただきます!」
――おぉー!うんめぇー!!
全体的にコリコリしてて、いい感じに香辛料も効いてる!
でも、どっかで食べたことある味のような?んー……あ、砂肝だ!
よし。こいつのことは、砂肝蛇と呼ぶことにしよう。
焼き鳥屋で食べる砂肝。トワにとって大当たりを一発目から引き当て、ほくほく顔でどんどんと奥に進んで行く。
「アランさん!あれは?」
「アランさん!こっちは?」
初めて見るものばかりで興味が尽きないトワは、あれやこれやと次々胃袋に詰めてゆく。
流石に少女の体では全部食べ切ることは出来ないため、アランと半分に分け、それでも余ったものは
それだけでも嬉しいのだが、一番の収穫はいくつかの屋台でレシピを教えて貰えたことだろう。
トワは得意の空間魔法で材料がどこにあるか探せるため、作り方さえ分かれば何とかなってしまうのだ。
「アランさん。旅路での食事、楽しみにしててくださいね!」
「本当かい!?よろしく頼むよ!」
それから二人は満足のゆくまで食べ歩き、可愛子ぶりっこで貰えるレシピも取り尽くした。ではそろそろ工房エリアに移ろうかという時。
路地裏の方で絹を裂くような悲鳴と、何かが割れるような鈍い音が響いた。
「アランさん!」
「あぁ、行こう!」
ごった返す人を押しのけ、悲鳴が聞こえた方へ駆ける。なんか、いやな感じだ。
路地を数回曲がると鉄っぽい臭いが漂い始めた。魔物を倒して多少は慣れたかと思ったが、やはり本能を刺激するのだろうか。焦りを感じる。
「お姉さん、どいて!」
トワは倒れている男性に触れる。そんな彼の頭は割れているのか、血が大量に流れ出ている。
それでも一先ずは安心か。もう彼の時間を止まっている。
「水魔法で治療をお願いします!」
「いや、無理だ。こんな重傷じゃ僕の力では」
「あ……だ、大丈夫です。任せてください」
なんでもできそうな魔法でも、流石に限度はあるようだ。ならぶっつけ本番だが、やってみるしかない。
アランはトワを信じ、回復魔法を唱え始める。
「『清らかなる水よ、かの者を癒したまえ。
宣言通り、アランの魔法では一切治り始める様子は無い。
しかし、辺りに流れ出た血が徐々に男性の元へと集まり始めている。これがトワの考え。アランの魔法に合わせて、不自然にならないように男性の時を戻しているのだ。
――ゆっくり、ゆっくり。焦ったらミスるし、なにより言い逃れできないほど目立っちゃう。
ついにじわりじわりと、傷が塞がってゆく。もう撒き散らされた血も全て元に戻った。これで終わ、りッ!?
あろう事か、男性は突然立ち上がってしまった。
――ヤバッ、ミスった!
この時、焦りからか巻き戻す対象を間違えていた。傷では無く、男性そのものの時を戻してしまったのである。
傷だけを巻き戻せば、あたかも『
「え!?今の……なに?」
「あれ?俺ビンで殴られたはずなのに、なんで……」
――ど、どうしよう。
男性が救われてみんなハッピーで終わるはずだったのに、一転してイタズラがばれた子供のような気持ちだ。
「トワちゃん、今のって?」
「……はい。時間魔法です。でも、ごめんなさい。間違えました」
「分かった。任せて」
任せるって一体なにをと、心配しているトワをアランは自分の背に隠し、懐から懐中時計を取り出した。
「今のはこの
使い捨てですが、数分間だけ対象の時間を巻き戻すことができます」
そんな便利なものがあるのか!?と思ったが、アランのこの顔、嘘か!
いや、流石に無理じゃ……
「金貨三枚もしましてね……さすがにタダで、という訳にはいきませんが、この事を誰にも話さないでくれるのであれば、金貨一枚で手を打ちましょう」
「わ、分かりました!誰にも話さないと誓います。助けて頂き、本当にありがとうございました!」
こんな取ってつけたような嘘だというのに、まさか信じてしまうとは。
いや、命を救ってくれた恩人が言っているから、内容はともかく信じるしかない、のか?
でもま、助かった事に違いは無いのだ。
「あの、ありがとうございます」
「気にしないで。臨時収入も貰えちゃったし」
臨時収入?ああ、金貨一枚ね。
流石は商人。ちゃっかりしてるなぁ。
「ところで、一体何があったんですか?」
「あっ、そ、そうだ!ブローチ、ブローチが盗まれたんだ!」
まずいまずいと狼狽える男女は夫婦のようで、お互い胸に〈アズーラ工房〉と書かれたバッジをつけている。
なんか困ってるみたいだし、詳しい話を聞いてみようか。
「今日は、ブローチを領主様に納品する日でね。領主様の素材持ち込みで、白金貨二枚で依頼された物だったんだけど」
「しかも、渡された素材はとても希少で、領主様は値段が付けられないと仰っていたわ」
――領主ねぇー。人攫いとかしてるって噂だし、怪しすぎない?
「その、希少な素材っていうのは?」
「ミスリルと、ブルーダイヤだって話だったよ」
「おお!ミスリル!」
やっぱりあるんだねミスリル。ファンタジー世界ではお馴染みの希少金属だ。それともう一つ、ブルーダイヤの方はもう見事に真っ青なんだと。
アズーラ夫妻はブローチを作っている事からも想像できるが、貴金属や宝石を扱う職人。そんな彼らがあれほど青いブルーダイヤは見たことが無いと言っているのだ。どれほど希少なのか、想像もしたくないね。
その二つの素材が使われたブローチ。それが奪われたとなってはただで済まないのは明らか。きっと黒い服を着たお兄さんたちがわらわらと集まって来る事だろう。
一応、念のために、詳しい形状を聞くと、創造神ファルマがブルーダイヤを抱いている意匠が施されているらしい。
どっかでたまたま拾ったりしたら返したいもんね。
「お気の毒でしたね。私たちも探してみますが、もし見つかったらどこに持っていけばいいですか?」
「あ、ああ。その時は工房エリアにあるアズーラ工房に持ってきてくれると助かるよ。どんなお礼でもする。だから、どうか、頼みます」
「了解です。それでは」
土下座で頼み込むアズーラ夫妻と別れ、ひとまず宿屋シングレイの方へと歩いて行く。
これは、イベント発生みたいだね!
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