ロストスカイ
〈速報。ヴァーデン東区にて、強い害性物質を含む爆発が確認されました。半径300mは消し飛び、被害総額は時間を経るにつれ跳ね上がっていくとみられます〉
早朝、来たるSoDとガインズのヴァーデン侵攻に対し、俺とイレイズ、そしてカロガス含む尊将格が集結し、現在会議を行っている。
「爆撃ですか?」
カロガスが聞く。
「わからない。グラング曰く「急に空が青く光った」らしいが」
「その時に反応はありましたか?」
「ガインズの戦闘機はなかったはずだ。となると…実験か?」
「東区を丸々巻き込んでですか?重要拠点なのに」
「そこなのだ。レグザム首相にでも訊いてみるか、流石に私設軍隊に国家機密を話そうとは思わないだろうがな」
レグザム=ヴォルティアス首相。ヴァーデンを治める賢君。
「難しいっすね。ところで、ロクスさんは?」
「まだ寝ていた。作戦会議を開こうかと思っていたのだが」
「誰を派遣しますか?あの人が起きなかった場合、代わりの将が必要になりますけど」
「ロクスは確実に来るが、3級兵長クラスの人員は欲しい。グウィンならば任せられそうだが」
「…え、私ですか?」
グウィンが驚いた反応をする。
グウィン=バータフリア。3級兵長、徒手空拳で相対すれば、B3で勝てるものは決していない怪力の持ち主。
「ちょ、ちょっと荷が重いんで、兵法指南でも受けさせてもらえればと」
「別にお前一人に任せるわけじゃない。言った通りだが、ロクスもついてくる。特殊部隊なだけに彼らの戦闘能力は折り紙付きだ」
「俺達は何をすればいいんですか」
カロガスが問う。この場合の「俺達」に含まれるのは俺とカロガスの二人だろう。
「何度も言うが、SoDが引き返してきた場合、この拠点はあっけなく壊滅するおそれがある。カロネスは攻撃向き、カロガスは防衛向きの戦型を多用、これが何を意味するかはわかるだろう?」
「…二人、一組」
「その通りだ、ここまで噛み合っている指揮官はあまり見たことがない。SoDは統率よりも個々の強さに重点が置かれているし、ガインズはどいつもこいつも戦闘を好み過ぎだ。強いて言うならヴァーデンのルディス長官とドーウォス長官のコンビくらいだろうな」
「では、ヴァーデンには2級兵長から送るつもりで?」
「そうなるな。先程の戦いで、こちらの死者数は25。対しSoDがほぼ全滅。10万などと述べていたが、実際は3万行ってるか行ってないかくらいだろう…よし、決まった」
全員が息を呑む。
「ヴァーデンには、ロクス=ヌーカ率いる遊撃隊、ラジテ=ワゼーイン率いる2級兵団、グウィン=バータフリア率いる3級兵団を派遣する」
―――
「アグネチア南の空は」
老人は語る。
「昔とっても綺麗だったんだよ」
「だった?何かあったんですか?」
「おや、若い子は知らないのか。曾て起きた伝説の戦争、ロストスカイ大戦争のことを」
老人は続ける。
「えーと、今は何年だったかね」
「2428年ですね」
「そうそう。今はSoDとかいうならず者たちが暴れてるけどね、昔もそうだったんだよ。SoDが確か20年前くらいに現れたんだけど、70年以上前にも同じ事が起きたんだ」
曰く、
「そして2394年、その時が訪れた」
「それが…ロストスカイ」
「そう。利害が一致したガインズとTTが手を組んで、当時あった空中都市――ビーラルゲって言うんだけどね、それを制圧しにかかったんだ。刻印と刻印が、人と人がぶつかり合っててね、酷い有り様なんだよ」
「……」
「途中までは連合軍が優勢だったんだけど、途中から他の空中都市まで参戦してきてねぇ」
「良かったじゃないですか」
「良く無いよ。ドサクサに紛れて周辺国を潰す国や、TTに触発された者たちが現れちゃって、混沌極まれりって感じだったさ」
「……」
「今とは質が違うけど、命爆鳴なんていう自爆装置も開発されてたっけねぇ。勝てないと判断したのか、TTの軍勢は皆で命爆鳴を起動して、死なば諸共と空中都市を爆破したんだ」
「……」
「それはもうすごい威力でねぇ…ガインズも便乗して、もっと強い命爆鳴を開発したんだ」
「そんなこと…」
「特にビーラルゲは、ガインズが開発した、命爆鳴ミサイルをもろに食らっちゃってね…都市一つ、跡形もなく消し飛んじゃったんだ。だからあの空は、ロストスカイって名称で呼ばれてる。TTの信奉者なんかは、ロストスカイ戦争のことを、空の聖戦なんて言ってたりするね」
「…どうしてあなたはそんなに詳しいんですか?」
「…俺が元TTなんて言ったら、あんたはどんな反応をするかな?」
急に声色が変わる老人。
「…え?」
「神剣:
若者の首が宙を舞う。
「一足先に来てみたが、案外警戒は薄いな」
男は変装具を投げ捨てた。
「ま、嘘はついてない」
ハッド=ワン=ケト=ブレソナー。SoD幹部。
「行くぞお前ら」
光学迷彩で固めた特殊部隊。誰にも気づかれず、誰も生かさず。
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