PhaseX:2 三つ巴編

上空の未確認飛行物体

「SoDはヴァーデンへ、それに便乗してガインズがヴァーデンに宣戦布告した」

「私達はヴァーデンと同盟を締結している。だが、連中のO.Wはもはや動く空中都市に等しい。数千万単位の兵を一度に輸送できるのだ、引き返されればこちらが危ない」

 司令室、私はライと話し込んでいた。

「追撃したほうがいいのではないか」

「O.Wに何人のSoD兵が乗り込んでいるのかわかったものじゃない。人質だっているだろうに」

「違う。挟み撃ちだ」

 ライは真面目に語る。

「ガインズは我らにとっても邪魔な存在だ。手当たり次第宣戦布告を行っては、戦地に甚大な被害を残していく。災害に等しいのだ。この際マーガネに協力を要請しても、何ら問題はあるまい」

 淡々とライは述べる。

 B3はヴァーデンと非常に親密だ。元々ヴァーデンはアグネチアと仲がよく、私達がアグネチアを奪還した際に、どうやらあちら側が、「アグネチアを救った組織」と報道したらしいのだ。

 対しマーガネは、資金は潤沢だが政府の態度が固い。総合的に見た際のリスクを鑑みて手を打つ為、予め戦闘に参加しなければ不利益を被るように細工しなければならない。

「マーガネとの交渉は困難だな…」

 察したのか、ライが頭を抱えた。

 …ならばヴァーデン側に仕掛けようか。

「ヴァーデンとの共闘に「マーガネへの援軍要請」という条件を設けよう。保険だがな。そもそもヴァーデンとマーガネは貿易が盛んだ、滅びればマーガネへの損害も大きい。あちらに拒否の選択肢はないはずだ」

「援軍要請を条件とする意味は何だ?」

「断ればヴァーデン市民がマーガネに不信感を抱くよう仕向けるためだ。あくまで保険だぞ?」

「むう…」

「心苦しいがどうにもならない。それより、兵を何人、スカイマシンは何機配備すればいいかだ。相手の出方を窺わなければ勝てない。グラングを呼べ」

 ―――

「あんまり気に病むことないっすよ。あいつなりのケジメですから。ロクスさんが無闇に悲しむ方が、あいつにとっちゃ失礼だと思いますけどね」

〈頭ではわかってんだよ…〉

 文字が、ベッドの真横にあるモニターに映し出される。

 ロクスはベッドに横たわっており、本人は一言も話してはいない。

 脳波意志伝達装置アルファウェイバーを改良し、文字起こしから、直接意志を伝達できるように研究者たちは頑張っている。

〈呟きを聞き取られたんだよ。自爆なんてな〉

 すぐに取り消すつもりだったんだろうが…遅かったのか。

 とはいえ、そんなことを口走るロクスさんにも責任が――いや、流石に本人に直接言おうとは思わない。ノルフがそれを了承したうえでやったことだし、本人の行動として片付けられるだろう。

 俺は懐から渡されたロードチップを取り出し、ロクスさんに投げ渡す。

「仕掛けておいたレコーダーの音声ファイルです。感謝してくださいよ?俺が置いたんですからァ」

 偵察隊の装備品は強力だ。このレコーダーも、壊れそうになると、内部に仕込んだ転移弾が作動し、勝手に戻って来る便利な代物。

「とりあえず起き上がってくださいよ。流すんで聴いといてください」

 俺はチップのスイッチをオンにした。

 ―――

 同時刻、ヴァーデン東区。

 五人一組で、兵士たちは巡回していた。

「あのクソ国家がいなけりゃ戦争なんて起こらねえのに」

「だから俺等に負けんだよ」

「血の気多いんだな、あいつら」

 少し前、ガインズがヴァーデンに敗北を喫した戦闘にて使用されたヴァーデン製品、虚爆装置デコイボム

 ガインズとの交易があるマーガネには決して輸入しない、ヴァーデンが誇る最強クラスの兵器だ。

「っぱ虚爆装置よ、あれに勝てるやついるのか?」

「でもガインズって宗教国家みたいなもんだろ?たしか兵役が国民の義務になってた」

「こえー、さぞ盲信的なんだろうなぁ」

「何時の話だよってな」

 ヴァーデンは区分けされている。

 東は対ガインズのために防御を固めてあり、西側はマーガネとの貿易のために貨物飛行船の係留施設が設置されている。

「…ん?なんだあれ」

 兵士のうちの一人が目を丸くする。

「あ?疲れて目がおかしくなったか?」

「自分で言うのもあれだが、疲れるほど働いてねえよ。見えねえのか?」

 兵士は指をさす。

 その先には確かに“何か”があった。

「…なんだあれ」

 しかし兵士たちはその“何か”の正体を全く理解できない。

「…宇宙移住計画って何処まで進んでたっけ?」

「た、確か貧困層に対しての火星移住実験があった気が」

 話がぶれているようだが、実際は全くそんなことはない。

 彼らが考えている可能性は、その何かの正体が「未確認飛行物体」であるということだ。

「結局解明されてたっけ?」

「全く。もしかしたらあれが」

「…う、撃ち落とすか?」

「やめろ!」

 仲間の静止も聞かず、兵士はそれに対し銃口を向け、まだ国内でも流通していないビームシューターを撃った。

 放たれた閃光は物体を貫き、兵士はガッツポーズを取る。

 物体は発光し、青色で辺りを覆い尽くした。




脳波意思伝達装置アルファウェイバー:頭に取り付ける装置。脳波を読み取りモニターに文字起こしする。数年前に研究者が通信を可能にし、現在はテレパシーを完成させるべく動いている。


ロードチップ:データを保存するための小型チップ。システムチップ、データチップの2種類がある。


虚爆装置デコイボム:勝手に敵を追尾して爆発してくれるスカイマシン型の爆撃機。味方からの見分けはつくが、敵からは通常機体と寸分違わず同じに見えるため、探知手段がなければ被害は甚大になる。

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