急転
「ぐぁっ!」
爆散するSoD兵を起点とし、どんどん爆発は拡大してていく。
「何が起こっている!」
「固まるな!離れろ!」
叫ぶSoD兵を無視して地獄絵図は広がる。
指揮官であるカロネスは現在、医務室にて戦闘中の模様。
精鋭揃いとはいえ、B3の兵力は少ない。この不利を覆すため、カロネスと私が考案した作戦は、住民すら利用した諸刃の剣だ。
カロガスが持つ《光投の刻印》で投げた
「この外道がァァァ…!」
SoDの将と思われる者が喚くが、こちらからすれば真っ先に力無き住民を狙ったのは他でもない彼ら。誘き出したのは我々だが、かといって向かって行っていい理由にはなり得ない。
「我らの魂は総帥と共にィィィィィィィィ!!」
甲高い絶叫を上げ散っていくSoD軍。
兵を2000ほど飛行船破壊に回そうかと考えていた時、アクシデントが発生した。
フォーズの結界が、壊されたのだ。
誰一人認知できなかった。何処からか現れ、突如結界を破壊した者の存在を。
ライも、カロガスも、そして私も。
眼で捉えられぬ速度で「それ」に接近するフォーズ。
「フォーズに加勢しろ!」
カロガスが指示を出す。
私達はまだ優勢だが、ロクス達飛行船チームは大丈夫なのだろうか…?
―――
「クソが!繋がらねえ!」
外部との一切の通信が遮断される!
いくら奪手弾を撃ち込もうが、起動してしまえばもう遅い。命爆鳴は最終手段、つまり阻止するためには「負け」を演じ騙さなければならない。かといって手加減しすぎると見抜かれる。
「“命爆鳴”」
負けを演じるよりも前。騙すことすら出来ぬまま恐らく10回目の命爆鳴。
「待てよ?命爆鳴の起動中は死なねえ…死ぬのは発動してからだ。つまり、今ノルフに銃を撃てば阻止できるのか…!?」
俺は、考えうる限りで最も速く、かつ最も威力の高い弾丸“光投弾”を装填し発砲した。
やはり人間は緊迫している際に集中力が上がるようで、俺の放った“光投弾”はノルフに見事命中。
炸裂前に倒したことにより、かろうじて命爆鳴は発動せずに済んだ。
「チッ…そろそろ帰…」
「ロクスさん…今頃B3はSoD軍を叩きのめしているでしょう」
急いで振り向く。
「あ?なんで生きてんだ?気のせいか?」
「気のせいじゃないです。やっぱ最新技術ってのはすごいもんですね、光投弾すら防ぐ防弾チョッキなんざ」
血を吐きながらノルフは喋る。
「お前…そこまで考えて」
「無能力者が刻印持ちに無策で勝てると?そこまで無知ではありませんよ」
よほど頑丈なチョッキなのか、完全に平然としている。
「話を戻しますが、SoDの目的はB3ではありません…現在この飛行艇O.Wは、ほぼ最高速度で航行中です。B3本拠からは、まあ軽く100km以上は離れているでしょう」
「はぁ!?さっき右翼を破壊したぞ?」
「この船は粒子合成反応が動力源です。翼はまぁ、飾りみたいなもんです」
「…まさか」
「総帥…なんて思っちゃいませんが、奴…マニュレイ=ロートルは大嘘つきです。20万が大群?否、SoDの軍勢は100万を超える…!」
「この船にそんな収容できる規模はねえだろ!」
「あります。少なくとも、あんたらが知る情報は全てフェイクだ」
鵜呑みにしようとは思わないが、それでも信頼というものはある。こいつは嘘など吐いてない…!
「…何故教えた?」
「元から僕はSoD側になんてついちゃいない。命爆鳴を使おうとしたのは、いっそ死んでしまおうという僕の決意でした」
「…それは嘘か?」
「いいえ本当です。信じたくなければどうぞ、いずれ僕は死にます。ならば最後くらいはB3へ感謝を送りたいと思いましてね」
俺はここまで聞いて、訊いてはいけないと思いつつも訪ねた。
「…なぁ、本当に死ぬのか?」
「え?」
「めっちゃ喋るじゃねえか」
「不安ならばもう一発撃ち込んでみてもいいですよ」
テンションが不穏すぎる。
「なんでノルフ…お前は死ぬ間際まで平然としてるんだ?」
「僕はB3に忠誠を誓っていた身ですが、SoDに人質を取られた時点で負けは決まっていました。最早僕は人間のクズだと感じ、どうせなら命爆鳴でこの船もろとも自爆しようと思っていたところでした」
「人質?」
「僕が敗北した今、誰も生きてはいないてしょうが…故郷の村の人々が人質に取られていました」
話を聞く限り、間接的に俺は村人を殺したことになる…。
「あんま背負わないほうが良いですよ。遅かれ早かれみんな死んでいました」
「つまり悔いはないのか」
「僕は寧ろ清々しいです」
「そうか…じゃ、頼みがある」
「はい?」
「戻って来い。B3に」
やむを得ない事情は仕方ないのだが、如何せんノルフは優秀なのだ。無くすには惜しい。
しかし俺の誘いは、ノルフの苦笑いで掻き消された。
「…無理ですね、そんなこと。信用云々ではなく、単純に僕が嫌です。別の頼みなら喜んで引き受けます」
最後の願いは、どうやら聞き入れてもらえなかったようだ。
「…命爆鳴で船を爆破…いや、無理か」
一言、口に出してしまった。
「ああ良いですよ。通信機ください、逃げたタイミングで爆破します」
耳に拾われ、ノルフがとんでもないことを言い出した。
「…おい、嘘だろ?今のはいいからな!?」
「早く行かないと巻き込みますよ」
どうやら変えるつもりは一切ないようだ。
「人としての償いは出来ませんが、B3としての償いはきっちりと終わらせます、それに…」
「それに?」
「僕一人の犠牲で、僕に相当する戦力を何人も葬れると考えれば安いでしょう」
「…お前…!」
止めようとするが、ノルフの表情は曇りのない笑顔。それを止める力など、もう俺には存在していなかった。
「話は終わりです。もう受けつけないので、さっさと逃げて下さい」
「……チッ」
俺は涙を隠し、そこを後にした。
―――
行ったか。
「これで良いんだ」
言い聞かせるように呟き、連絡を待つ。
意識が少しだけ薄れてきた頃、通信が接続された音がした。
[脱出完了。脱出完了。爆破してくれ]
「了解です」
涙ぐんだ声で話すロクスとは対象的に、僕はとても活き活きしていた。
「よし、考えるのやめた!」
僕は勢いよく命爆鳴のボタンを押した。
《光投の刻印》:刻み付けた物体を投擲或いは射出した場合の威力と速度を底上げする刻印。発動中は物体が輝き、まるでレーザービームの様に見えるためこの名が付いた。
伝染性爆裂子:ピンポン球サイズの爆弾。爆発すると、刻印粒子の含まれた爆風が周囲に飛散し、連鎖的に爆発を引き起こす。威力は低いが、影響面積が加速度的に広くなっていくため、広範囲の殲滅に最適。
《複写の刻印》:録画モードと再生モードが存在する。録画モード中、視界に捉えたありとあらゆる物をそのままコピーし、それを再生モードで映し出す能力。背景を消し物体のみを映したりも可能。
一番隊:B3最強の隊。ノルフやレドはここに属している。
光投弾:《光投の刻印》の刻印弾。
粒子合成反応:核融合の試行回数を増やすために開発された技術。
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