命爆鳴

 命爆鳴。使用者の命をすべてエネルギーに換算し自爆する、最後の花火…といえば聞こえはいいが、早い話、ただの自爆特攻。その威力は使用者の実力に応じて増し、もし世界を統一できるような者が使えば、星ごと消し飛ぶと言われている。

 ノルフはB3最高戦力の一人。レドと同レベルの実力があり、もし刻印があれば俺を凌駕していたと思わせる。それほどの力を持つものが命爆鳴を使えば…

「―――」

 声は爆発音に掻き消され、涙は流れるよりも先に爆風で乾いてしまった。俺の体もノルフと同じ様に塵と化し、俺はヴァレク、マニュレイに続き、ノルフに3度目の死を味わわされた……はずだった。

 ―――

「避難完了致しました!」

「よし、そのままフォーズの元へ向かえ」

「はっ。確かに」

 兵に指示を出し、次の作戦の立案の為思考を巡らせていると、突如ロクスからメッセージが入った。

「医務室に警戒しろ」

 読んで直ぐ理解した。何かが転移弾で医務室に侵入したのだ。

「カロネス!」

「はいィ」

「医務室に侵入者がいると思われる。直ぐに向かえ」

「どの医務室ですかァ?」

「現状、医務室は1つも使用されていない」

「つまりA棟かァ…近いっすねェ。了解しましたァ!」

 カロネスに対応を命じ、モニターで居住区付近を監視した。

 ―――

「誰だァ!?」

 俺は勢いよく扉を開けた。

 B3は、分類としては国というより私設軍隊に近い。そのため、負傷あるいは病に冒された者が出た場合、50床の部屋が50棟あるため、計2500人をここで治療し、それ以上ならマーガネやヴァーデンに送って治療してもらうという方針を取っている。

 転移弾を改造することによって、医務室Aが埋まればBに、Bが埋まればCに、最後のX'が埋まればヴァーデンの病院へと送られる仕組みを構成した。

 つまりどこも使われていなければ勝手に医務室Aへ搬送される。なぜ入り込んだのかは知らないが、少なくとも視認できる範囲では一人しかいなかった。

 後から増援を呼べば勝てる。そう思っていたのだ。

 ―――

 命爆鳴発動後、確かに俺は塵となった。

 しかし再び時間が巻き戻った。

 前回は俺が死ぬ直前だったが、今度はそれどころか、背後にノルフの殺気が感じられた瞬間まで戻ったのだ。

 マニュレイとの戦闘でも起きた時間の巻き戻り。意味は分からないが、俺の巻き戻しが何階でも使える場合、残機無限の不死身となる可能性がある…が、そもそもこれが無限に使えるわけがない。

「次は無いかもしれねえ…」

 振り向き、懐から、今や時代遅れとなった実弾装填型の銃を発砲。

 現在の主流は非実弾型、つまりレーザー銃だ。レーザー銃の利点は即時命中と、照射を続ける事によってダメージが跳ね上がっていく点。

 当然ノーリスクハイリターンなんて美味い話はなく、欠点も存在する。

 まず射程が短い。というのも、赤外線を凝縮したレーザー故に、遠方の敵に対して熱が入らないのだ。

 次にコスト。当たり前だが、古来より使われ続けてきた兵器と最近の兵器では、コスト面において天と地ほどの差が出る点だ。

 とはいえ汎用性と、弾速の概念が無いというメリットを鑑みても、非実弾型が主流となるのは至極真っ当と言えるだろう。

 しかし、刻印弾という物があるおかげで、未だに実弾型は高い需要を誇っている…とここまで言った結果、どう考えてもレーザー銃は主流ではないことに気づく。

「ま、正味どうでもいいか」

 俺はヴァレクとカロガスが使用する実弾型銃、鈍砲-S25スローショット·ストレートを懐から取り出す。

 強烈な回転をかけつつ弾を減速させるこの銃は、卓越した戦闘員ならば見切れるほどの弾速しか無い。

 しかし一瞬そちらに注意を引かせることが出来れば、《浮遊の刻印》を仕込んだ刻印兵器“複印弾コピーショット”で動きを封じられる。

 ノルフが弾丸を躱した。

「時代遅れなものを使ってますね」

「短剣使ってるやつに言われたかねえな」

「槍使いに言われたく有りません」

 一気に距離を詰めてくるノルフ。

 肉弾戦のセンスで言えば、恐らくノルフはライと同等。落ち着いていれば勝てるが…。

「柱状波弾!」

「“奪手弾”」

 俺も負けじと刻印弾で抵抗する。

 柱状波弾は、着弾地点の真上へと、文字通り柱状のレーザーを放つ。

 対し俺の刻印弾は“奪手弾”。着弾した対象が一定以下の体積と質量である時、発動者の手元へと対象をワープさせるもの。

 銃のセンスはヴァレクに劣るが、それでもB3内では上澄みのはず。

「銃が無くなりゃてめえは終わりだ!」

「柱状波弾はただの時間稼ぎです。来世で…お幸せに」

 さっきと似たようなセリフを放ち、ノルフは再び命爆鳴を発動してしまった。

 ―――

 どうやら残機無限は本当かもしれない。

 またも時間が巻き戻ったのだが…いや、違う。発動する前じゃない。どう考えてもなのだ。

 でなければ、何故俺の手元にノルフの銃があるのか。

 奪手弾射出直後に命爆鳴を発動されたため、時間が戻ったなら当たっているはずはない。

「チッ…」

 ノルフは舌打ちし、こちらに短剣を勢いよく投げた。

 あの反応から見れば、恐らく奪手弾は当たったのだろう。

 分からない。この謎の力の正体が。そもそもいつ手に入れた?生まれたときから?ならばマニュレイの時まで一切片鱗を見せなかったのは?全く分からない。

 何故、俺にはB3を組織する前の記憶がないのだ?




自動射撃装置:銃に取り付けるアタッチメント。一定間隔で引き金を引いてくれる。


刻印弾:柱状波弾や転移弾などの、刻印を刻んだ銃弾の総称。


予測鏡眼:主にヴァーデン軍が使用するゴーグル。銃の種類と銃口、口径を判断し、それによって予測弾道と、発射後自分に命中するまでの秒数を即座に割り出す物。

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