重なる不幸

「順調か?」

[当然です。刻印研究所手作りの爆弾なんて弱いわけもなくて――]

 ドサッ。

「…あ?」

 トランシーバーから、誰かが倒れる音がした。

 通信先は、遊撃隊という括りで見れば俺、ヴァレクを除いて上位TOP10には入るであろう、B3上級戦闘員、レド。

 ライが教えているだけに、そんじょそこらの刻印持ちに負けることは想像し難い。さらにレドのチームには、B3の非刻印持ちの中で最強を誇るノルフが存在する。負ける要素がないのだが…。

 ひとまず、レドのトランシーバーの座標を確認し、座標計を開く。

「CX、現在の俺の位置を中心に、レドのいる位置を座標として表してくれ」

〘了解しました。システ厶はB3の座標計と同様でよろしいでしょうか?〙

「ああ。それで問題ない」

〘検出しました〙

 CXが弾き出した位置は俺の真上だったため、グラングが使用した「一箇所をこじ開ける(名称不明の)機械」で穴を開けた。落下してきた床の上にいたレドに刻印兵器“転移銃”を打ち込み本拠へ送還する。

 続いて、俺はノルフに連絡を入れた。

 返事はすぐ来た。

[え?何もないですよ?レドもここにいます]

「はぁ?じゃあれは一体…おい嘘だろ?」

[偽物かも知れません]

 俺は即座に通信を切り、本部へ「医務室に警戒しろ」のメッセージを送る。

「…待てよ?」

 偽物なら、何故爆弾が刻印研究所の物だと知っている?忍び込んだとして利点は?6万人はいる中、一人で太刀打ちできるのか?だとすれば何故温存しない?

「…違う」

 避難したレドに気を向けるのが目的なら、或いは本物のレドが偽物として殺されることを想定していたなら。

「偽物はノルフ…お前だ!」

 後ろから迫る殺気を感知し、飛びかかって来たノルフの短剣を弾き飛ばした。

「バレてたかぁ」

「ついさっきだけどな、巧妙にやりやがって。で?正体は何だ?」

「正体もクソも無いですよ。僕はノルフ。それだけです」

「嘘だな」

「対象を変化させる刻印は、変化した対象から印跡が検知されます。嘘だと思うならどうぞ」

「ハッタリじゃねえのか?」

「だから違いますって」

「ノルフが裏切るわけねえだろ!」

「僕も出来るならこんなことしたくなかった」

「何を――」

「詳細を言ったら僕は総帥に殺されます。尊敬すべき上司であるあなたの目の前で殺されるか、あなたに挑んで死ぬかなら、僕はまず後者をせんたくしますよ」

 その平然とした顔はいつもの、表情豊かなノルフとは、その発した言葉とはかけ離れており、スカイマシンでのヴァレクのような虚無感があった。

 ふと思い出した。ヴァレクがおかしくなったのは、マニュレイに刻印を刻まれた時だ。

 そしてノルフも、あの時のヴァレクと同じ雰囲気がある。そういえば…

「SoDに関わった人間は、洗脳されたように動く」

 合点がいった。あれは比喩でもなんでも無い。洗脳されているんだ!

「マニュレイ…結局元凶はてめえかよ…!」

「悪いですが、そろそろ行きますよ」

 目で捉えられぬ速度でノルフは走り出した。

「刻印兵器“柱状波弾ちゅうじょうはだん”」

 着弾点から火柱ならぬビーム柱が上がった。

「残念ですが、僕は僕の犠牲なくしてあなたに勝てません。あなたと僕の被害が4:6よりも傾くことは有り得ないので、せめて10:0ではなく9:1に抑えたいところです」

「10:0?俺がお前を殺すとでも?」

「思ってませんよ。僕の9であなたに1を与えるだけです。そのために――」

 ノルフは懐から、手榴弾の様な形状をした、新たな刻印兵器らしきものを取り出した。

「僕は生贄となります」

「何を言って…?」

「刻印兵器“命爆鳴めいばくめい”。来世があるかは分かりませんが、もしあるなら…お幸せに」

 直後、ノルフの身体が塵となり、爆散した。




座標計:B3本拠の中心に存在する基準磁気体サインストーンからの距離を表したもの。方向、東西南北の距離、高度が分かる。

基準磁気体:B3の便利屋その1。N極単体で構成された巨大な磁石。コンパスの役割を果たしつつ、座標計のある位置を割り出す、GPS的なもの。

CX:汎用性に優れた、ヴァーデンの製品。感情を持ったAIで、これを授業で使い道徳を学ぶ学校もあるという。

“転移弾”:刻印兵器の一つ。撃ち込んでもダメージはないが、あらかじめ登録した場所へ強制的に移動させられる。

印跡:刻印を刻み付けた跡で、刻印に応じたマークがある。傷には残らないが、専用の機器を使用することで、付いた時刻、付いた部位を特定出来る。

“柱状波弾”:刻印兵器の一つ。着弾点から極太ビームを柱状に出す。

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