開戦

 ガインズ帝国、マーガネ、ヴァーデン。今や衰退しつつある地上の大国の上空に、燦然と輝く空中都市。

 200年前、全世界の空に現れた、トーガを纏う老人より賜ったと言われる刻印の力。

 これにより均衡を保っていた世界は終わりを迎え、西暦2231年、第四次世界大戦…及び大刻印戦争が勃発した。

 加えて、全世界の上空で同時に現れ、謎の力をこの世に残した老人は、「神」という言葉でしか片付けられなくなり、それによって世界に追い打ちをかけるかの如く宗教紛争が多発。

 幾多もの命と文化、歴史的建造物が失われる中、ある赤子が産声を上げた。

 彼は周辺地域を掌握し、数年かけて国家を乗っ取った。

 国を得た彼は、それ以降も破竹の勢いで進軍し、弱りきった国々を統一…そして2259年、歴史上、誰も成し得なかった世界征服を遂げた。

 彼は真王と名乗り、40年間、その手腕を振るい続けた。

 しかし2300年、丁度世紀が変わる瞬間、諸地域の政庁にて、刻印所有者による大規模テロが発生。

 当然の如く、その魔の手によって老齢だった真王は死亡し、それに呼応するかのように、各地の地盤が浮かび上がったのだ。

 天変地異とも言えるこの状況を捉えた動画郡は、瞬く間に世界へと拡散。真王の娘は二代目に祭り上げられ、その記念として、太平洋の中心に人工島、ゴッドキャッスルが建造された。

 浮かび上がった地盤は、最初こそテロ組織の温床となってはいたが、それぞれの領主が独自に対応を続けた結果、追い出すことに成功。

 浮遊する地盤の上に都市を設立する計画を実行し、現在に至る。

 ―――

「…多くねェ?」

 俺の最初の感想はそれだ。

 隣で腕を組むイレイズ司令官も冷や汗をかいている。

「十神宝剣は使っても構わないんすよねェ?」

「逆に問おう。使わない手はあるか?」

「無いっすねェ」

「あと、今回は私も行かせてもらう」

「何考えてんすかァ!?司令官が前に出るなんざァ…」

「これでも一応、B3の中では強いほうだと思っているのだが…」

「まァ、他がおかしいだけですしねェ…」

 B3内での刻印抜きでの強さは、他の追随を許さないレベルでフォーズが断トツ、俺とロクスが同率、次点でライ、カロガス、ヴァレク、マニュレイ、司令官の順のはず。

「フォーズ呼びますゥ?」

「いや…あいつの強さは折り紙付きだ。お前とロクスのコンビでも圧倒されるレベルなのだろう?それは敵への抑止力となり得る。呼ぼうものなら敵は居住区へ雪崩込むぞ」

「無理そうっすねェ…」

 B3の十神宝剣持ちは俺、ライ、司令官の三人。それぞれ水、雷、刻印の打ち消しという能力を宿している。十神宝剣はその力に応じた刻印を追加で使えるようになるというメリットが存在する。ライの別名が「雷龍」なのはそのためだ。

「つかァ…この量を見るに、あのマニュレイの証言は嘘ですよねェ。確実に20万はいる」

「奴は恐らく、引っ掛かる方が悪いという思想だ。ある程度、騙される方にも責任はあるが」

「うわァ」

「何故私はドン引かれたのだ?常に警戒してないと…」

「詐欺に合う一般人に言うことじゃ無いっすねェ」

「まぁ確かにそうか…閑話休題、空中都市内での立ち回りをどうするか」

「気を引く遊撃隊兼囮がいないっすからねェ、フォーズに頑張ってもらって、居住区を餌に引き付けるとかですかねェ?」

「難民を危険に晒すのか!?」

「そらリスキーなのは承知の上ですゥ。ですがもとより戦力差は3倍ィ。根本のリスクが高すぎるんすよォ」

「まぁ一理ある」

「正面から挑んで勝てるとお思いでェ?精鋭揃いとはいえ数の暴力ですよォ」

「…ならば餌を変えよう。難民の者たちの命はあまりにも高すぎる。策士というのは、貧相な餌を豪勢に見せるのが得意なのだ。居住区の民を全て防壁に避難させろ!」

「あーなるほどォ…ではそのようにィ!」

 ―――

 作戦はこうだ。

 まず居住区の民を防壁に移す。続いて、《動映の刻印》で、住民の逃走の様子を映し出す。それによって誘き寄せ、周囲の防壁から一斉に伝染性爆裂子を投げつける。

 住民の保護は重大な責任が問われるため、失敗すればB3の信用は地に落ちる…という点から、居住区を攻撃してから防壁に手を出すはず。民の移動は、50人ほどのB3兵が補助を行う手筈で、遅くとも一時間で完結するはずだ。

 残りの兵で時間を稼ぎ、居住区へと向かう。そして戦線にフォーズを加算し、決戦を行う。

「迎撃はこれで問題ない。だが…」

「やっぱあの飛行船っすよねェ…」

 B3の本拠は空中都市だが、SoDの本拠は「O.W.OUR WORLD」、空中都市に匹敵するサイズを誇る巨大飛行船。

「移動が自由なだけに、迅速に破壊しなければ他都市に影響が出る」

「とはいってもォ…無理じゃないっすかァ?」

「ああ無理だ。だが、敵を騙すには味方から。先程ロクス達を呼び戻していた」

「裏から急襲かァ…!」

「そうだ」

 飛行船に目を向けると、右翼が折れていた。

「…ああ、了解。そうしてくれ」

「ロクスですかァ?」

「そうだ。内部からの破壊を命じた。飛行船の来襲を確認した時点で、グラングに船内の偵察を、ロクスには帰還命令を出したからな。SoDの総戦力は現在30万人」

「あれェ?じゃ船内には10万人が待機してるんすよねェ?」

「ああ。ロクスでも勝てないだろう」

「…やりあえばってことっすかァ…!」

「その通りだ」

[イレイズ!]

「ああロクス、どうした?」

[12区画のうち前方2区画を爆破、そのうちの一つは壊滅したぜ]

「了解だ」

「そんじゃこっちも頑張んないとですねェ」

「本当にな」

「いよいよ開戦っすかァ」

「…死ぬなよ」

「死にませんよォ!」

 俺は言い放ち、司令室を飛び出した。




結界:フォーズの《守護の刻印》によるバリア。

《守護の刻印》:刻印を刻み付けた場所を中心とし、球状にバリアを張る。《防壁の刻印》どの違いは範囲。

O.W.(OUR WORLD):SoDの本拠地。船全体を前方、中、後方の3区画に分け、それを四分割した計12区画で構成されている。


伝染性爆裂子:2〜3話後くらいに解説入ります。

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