作戦会議

「……どこだここ」

 俺が目覚めた場所は、見渡す限りだと病室のようだ。

 SoDの侵攻によって陥落し、都市としての機能を失った五大天都の一角、アグネチア。技術はヴァーデン、軍事はガインズ=インパル、経済をマーガネとするならば、アグネチアは農業。食料という概念が移り変わっていく中、その波を躱した者たちの都市。

 陥落翌日に奇襲し、当時のB3の総力を挙げて奪還。結果俺達はアグネチアの民を味方につけ、さらにその4分の1ほどを兵力に加算し、活動の拠点を手に入れた――という経緯を持つB3本拠。

 元は小さな組織だったが、地上に逃れた者たちの集落を吸収し少しずつ規模を拡大し、マニュレイの加入によってようやく空中都市を手にできたのだ…ん?

 ふと思い出す。俺がこの地位にいるのは、イレイズ、フォーズに並ぶ創立メンバーだったからだ。マニュレイも古参の部類であったが、イレイズは決断実行までがかなり早いため、B3は加速度的に成長を続けていた。故に、活動二年目ともなるとメンバーは5000人を突破し、ちょうどその頃に入って来たカロネス、カロガスはしっかりと功績を残していた。

 だがマニュレイは、俺の知る限り目立った功績はなく、かと言ってあのイレイズが賄賂を受け取るはずがない。いやそもそも、本来の目的は“SoDを倒す”ことにあるとイレイズは考えているため、賄賂を受け取るはずがない。実力が証明されていなければ何の意味もないからだ。

 悩んでも一向に答えは出ず、開き直って俺は眠りについた。

 ―――

「心音は聞こえるぞ?」

「じゃ生きてるっすよォ。あ、目ェ覚めましたねェ」

 起きてまず最初、視界に飛び込んできたのは、少し心配そうな表情を浮かべるイレイズと、そんな素振りすら見せないカロネスだった。

「体はとっくに治ってら。どこか分かんねえし寝てただけだぜ」

「ならいいんだが」

「俺はロクスさんがあの戦闘で死ぬなんざ思っても見ませんでしたからねェ。1000万Σシグマ賭けても良かったくらいでェ」

 屈託のない笑顔でカロネスが言う。

「キレてる?」

「キレてませェん」

 カロネスは目つきが悪いうえ、ガタイがいいせいであれ気な人物と勘違いされがちだが、根は仲間思いかつ自己犠牲に躊躇がない。こいつの中では自分<他人なのだろうか。

「あの部屋のモニターの通信が遮断されていた。マイクも通らなかったが、何故かカメラだけはオンになっていたのだ」

「恐らくですがァ、まぁ無理だとは思いますけどォ、勝つ自信があったからァ、その瞬間を見せびらかそうとしたんじゃないんすかねェ?」

「だったら別にモニターを壊さなくてもいいだろう。そんな手間をかける必要はあったのか?」

「まァ、奴の発言を信じるならあれはマニュレイなのでェ、もしかすると俺等には分かるはずもないような作戦があったのかも知れませんよォ?」

「まあ、大半は私の指示とは言え、ある程度マニュレイに依存していたのも事実。確かに兵は私の手足だが、マニュレイはそれを動かす筋肉のような役割を担っていた。私もあの頭脳ならばと思ってしまう」

 あのイレイズが頭を抱えている辺り、俺もマニュレイの活躍についてはそこまで把握しきれていないようだ。

「次の目的地はここだって聞いてんだが」

「フェイクじゃないっすかねェ」

「仮にフェイクだとすると、最も有り得るのはヴァーデンの襲撃だ。ガインズ=インパル…通称ガインズ帝国の国民は、帝臣世統一カイザー·ワンを信仰している。彼らにとってSoDなどの存在はどうでもいいため、お構いなしに周辺国に攻め込んでいるのだ。そしてつい先日ガインズ帝国とヴァーデンの間で戦火が上がった」

「ガインズ帝国はあんま気にすることないとは思いますがァ、ヴァーデン側の被害状況はどうなってんすかァ?」

「流石に工業大国だ。刻印兵器等、最新鋭の武装によって撃退に成功し、被害額は5000万Σにまで抑え込めた。その分はマーガネと貿易して補うつもりだろう。ロクス達を派遣したのは、ヴァーデンに潜んでいるガインズ帝国の残党を排除するためだ」

「なら明日ァ、様子見しつつヴァーデンに兵を派遣しましょうよォ」

「私も出来るならそうしたいが」

 イレイズは決断から実行までは早いが、発案から決断までは遅い。要するに、有能な優柔不断なのだ。

「ここに攻め込まれる恐れがあるならァ、1000人位をヴァーデンに、残りをここの防衛に当てればいいじゃないですかァ。最悪ゥ、ヴァーデンにはヴァーデンの軍勢がありますしィ、そもそもガインズ帝国を破った時点で強さは保証されていますゥ。現状、同盟を結んでいるのはヴァーデンだけでェ、しかも手一杯となるとォ、ここを空けるのは危険なのでェ」

「確かに、B3約6万人もいれば侵攻は困難になるはずだ。ここは賭けに出るか」

「じゃ、その1000人は俺が引き受けるぜ」

「だったら、ここの防衛の指揮権は俺に任せて下さいィ」

 二人して名乗り出た。

「ああ。カロネスはいいが…ロクス、お前は少し待て。一度グラング率いる斥候隊を向かわせる。1000人しかいないんだ、細心の注意を払わなければな」

「どーん!!」

 陽気な叫び声が聞こえた後、突如、壁に円形の穴が開き、そこから、小柄な女性…索敵隊長、グラング=タイルが入ってきた。

「盗み聞きの甲斐があったよ。アタシ大仕事任されそーなんだけど?」

「任されそーじゃない。任せるんだ。あぁ、毎度毎度壁をこじ開けて入るのはやめてくれ」

「いーじゃん直すんだし」

「ヒヤヒヤするんだよ」

「へいへーい」

 これで決まったようだ。

「では、ロクスは遊軍、グラングは斥候隊から各1000人ずつ、残った兵の半数を警備に回してくれ」

「「「了解!」」」




Σ:通貨単位。1Σ=10¥。

帝臣世統一(カイザー·ワン):ガインズ帝国のみが世界の頂点という思想。

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