vs.マニュレイ

 例のスカイマシンで確認した限りでは、こいつの刻印は直撃しなければ意味がない。このタイプの刻印持ちは接近しなければ発動出来ない関係上、いつでも距離を詰めることが出来、かつ近接戦闘が強い…すなわち手練であることがほとんど。だが…

「遊撃隊の役割は囮と奇襲、嫌でも目立っちまうんだよ」

「…!」

 構えていた槍でガードし、脇腹に蹴りを入れる。

「がっ…」

「この大理石の空間は処刑場だ。無駄にだだっ広い上、脱出方法はイレイズしか知らない。お陰で誰に邪魔されるでもなく、てめえとの一対一タイマンを楽しめるぜ!」

 無論楽しむつもりなど微塵もない。ただの気合い入れだ。

「やはりこのままでは、場数を踏み慣れたお前には勝てん」

 マニュレイは右手の刻印を解除し、今度は別の刻印を起動した。

「は?」

 到底理解しがたい行為を行ったマニュレイは、その刻印の中から何かを引き抜いた。

 恐らく空間に刻印を刻み込んだのだろうが、俺が驚いたのはそれだけではない。

「生憎十神宝剣は持っていなくてな。我らSoDの最高傑作を使わせてもらう」

 そう言ってマニュレイは、柄に何かをセットするような機構の付いた、チェンソーの様な剣を取り出した。

「冥土の土産に教えてなどやらんぞ。私はここで負ける可能性まで考慮しているのだ、利点がない」

「その割には刻印を当てそびれてんじゃね―か」

「最初から当たるなどと思ってなかったからな…さあ、これでようやく対等に戦えると私は判断したが、お前はどうだ?」

「……それも変装か?」

 なぜここまでして、たかだか一人を追い詰めているのか。

「唐突に何を言うか。そんな訳無いだろう」

「そうじゃなきゃ、俺らには理解出来ねえような、それはそれはさぞかし壮大な計画を練っているに違いねえよなぁ?総帥さんよ?」

「…本来私がお前を倒すためにここに来るはずがない。では何故か。私がそもそもからに決まっているだろう?」

「…?!」

 さっきから予想外の外を突かれ続けているが、今回に至っては話は別だ。仮にこいつの分体が何体もいた場合、あるいはこいつの部下に文体を生成できるやつがいる場合、現段階ではB3単体で太刀打ち出来る問題ではなくなる…!

「来ないなら…こちらから行くぞ」

 マニュレイが一気に距離を詰めて来た。

 薙ぎ払いと判断した俺は、即座に後退し、リーチを活かして隙だらけのマニュレイの右足を貫く。

 本体ではないにせよ、ダメージを与えれば何かしらの影響はあるはず。こいつを倒せればまだ自体は好転する可能性がある!

「やっぱダメだな…最悪の事態ばっか想定すんのは」

「残念だが、そのお前が想定した最悪の事態は、殆ど当たっていると断言しよう。ああ、思考を読めるようになる刻印など私は持ってないし、持っていてもお前に刻み付けた覚えはない。安心しろ」

「胡散臭え…安心できるかよ!」

 つかそもそも機密情報を軽々と話しやがった時点で、俺の中でのこいつへの警戒心はカンストしかかってるんだよ!

 俺は、槍を大きく振り下ろし、敢えて大きな隙を見せた。

「焦っているのか?」

 そんなことは目的じゃない。俺は棒高跳びの要領で高く跳び上がり、勢いで突き刺さった槍を同時に引き抜いた。

「意外にも単純な方法だ。隙を晒して不意打ちと読んでいたのだが」

「一応俺はお前を頭良いやつとして見てたのにな。どうせ滅ぼされんだよてめえらは」

「先程言っただろう?私達は次、ここに攻め込むのだ。その台詞が果たしてブーメランとなるか、それとも矢となるか。結果は私にもわからない」

「ブーメラン?矢?いつの時代の話をしてんだよ!」

「別に古代のものだろうが問題はないだろう?上がったのは人間の耐久力ではなく、その周囲の耐久力だ。私の本体もお前も、矢で頭を撃ち抜かれれば等しく死に至る。まぁ、ヴァレクの様に独自の防御法を持っているなら話は別だがな。どのみち――」

「喋りすぎだ!」

 俺は漫画かなんかのキャラクターの如く、敵のセリフを悠長に待ったりしたくねえんだよ!

 俺は槍を使い、ある程度離れた位置から、首めがけて再び槍をフルスイングした。

 首に当たる刹那、何かが叩き割れる音がした。

「な…!」

 驚愕した表情を浮かべるマニュレイ。

「刻印を…無効化だと?」

「何の話だ?」

「その槍…まさか」

「この槍がなんだよ!?」

 俺の質問には答えず、マニュレイの体は塵となって消えた。

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