PhaseX:1 SoD侵攻編

計画

「うあぁぁぁ!」

 左腕がまたあの時のように光りだした。

 直後、この場になかったはずの槍を手に持った状態で、斬られる直前に時間が巻き戻った。

 偽ライが振りかぶっている状態のため、理解できないまま、ひとまずライの刃を受け止め、

「誰だお前は?」

と問いかけた。偽ライが黙ったまま力を入れ続けるので、俺は《浮遊の刻印》を起動し、無力化してから槍をフルスイング。

 《浮遊の刻印》のお陰で、体重がないも同然となった偽ライは、そのまま勢いよく吹き飛んで壁に叩きつけられた。

「ぐっ…」

 当然その程度でダメージが入るなんて思ってもない俺は、間髪入れず即座に接近し、磔にするときの杭の如く、偽ライの右手を貫いた。

「もう一度訊く。誰だお前は?」

「…」

「このまま答えないなら、SoDの拷問よりも数段えげつねえことをするつもりなんだがな」

「…」

 偽ライに冷や汗が流れ始める。

「じゃあ交換条件と行こう。お前が出してくれる情報によっては、まあお前に俺等の情報を開示しないでもない」

「…その約束は本当か?」

 勿論嘘だ。本当な訳がない。ここまで見え透いた嘘に騙されることはないと思ったが、偽ライは

「…腐っても反乱組織B3だろ?ここから開放されるという僅かな可能性にかけて、てめえらに情報を渡す」

と、さながら主人公の右腕めいた雰囲気を醸し出しながら言った。当然のことながら、こいつを生かして返すつもりは毛頭ない。あくまでこいつはモブなのだ。

「俺等が次に侵攻する場所は…ここだ」

「…まさか」

「そう。難民の保護も兼ねる大規模施設、B3本拠だ」

「詳細は?」

「軽装兵一万、輸送兵三万、刻印兵器10機、幹部数人、そして総帥だ。内訳はそう聞いている」

「総帥だと?」

 マニュレイが去り際に行った言葉…「SoDの長」。SoDが行動を始めたのが20年前、B3が発足したのが15年前。そしてマニュレイがB3に加入したのが13年前なのだが、ここから考えた場合、マニュレイがどこかで裏切ったか、そもそも最初からB3になど所属していなかった可能性がある。だが、果たして13年間も普通に、しかも刻印を隠しながら生活する目的が分からない。

 そもそもB3がこの空中都市を得たのは8年前だ。それまでは世界に知られることもなかった小規模組織であり、SoDの勢力を使えば滅ぼすことは容易だったはず。

 実際、マニュレイが加入したことにより、B3の戦力と規模は大幅に拡大した。どこかで裏切っていたなら、イレイズが勘付く可能性が高い。

 どの線をとっても、マニュレイがSoD、ましてやその総帥である確率など限りなく低いのだ。

 一通り思考を終えた後、恐らく重大な疑問があることに気づいた。

「お前、幹部だな」

「…」

「一般兵がそんな情報を知っているわけがない。というかそもそも、一般兵にこんなスパイみたいなことは任せない」

「…80%正解だ。たかが20%、されど20%。この差は大きいぞ…完全に間違っているとは言えないが、かといって間違いではないとも言い切れない」

「何だ?実は形だけの幹部ってか?」

 偽ライは嘲笑の表情を浮かべ、言い放った。

「…残念ながら不正解だ。私は幹部よりも上。お前のよく知る人物だ」

「待て…嘘だろ?」

「お前が考えていることはわかっている。そして恐らくその通りだろう」

 偽ライの姿を変えていたであろう膜が消えていく。

「私は総帥だ。またの名をマニュレイ…マニュレイ=ロートルだ」

 言いながらマニュレイは、俺に向けて刻印を発動した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る