本性
「うっ…」
ヴァレクは、不意打ちで背中を貫かれてもなお、小さなうめき声を上げるだけで平然としていた。それを可能にしているのは、彼の巨体と努力で培った耐久力、そして、常時刻印を起動させたうえで全身に効果を行き渡らせる事が可能なほどの体力だった。
「な…なんのつもりだ?マニュレイ」
巨大に見合わぬ温厚な性格のヴァレクは、自分が刺されているのにも関わらず、まだ怒りではなく驚きの感情を見せていた。しかしロクスは、マニュレイのその冷酷な表情とヴァレクの傷口を交互に見比べ、怒りを剥き出しにしていた。
「何をしている?」
まだなにか理由があるのかも知れないという可能性を込めつつも、憎悪を隠しきれないような低い声でロクスが言ったが、マニュレイの返答は、そんな僅かな望みすらも打ち砕く冷ややかな一言だった。
「何って…SoDの長としての必要な使命を全うしただけだ」
ロクスとヴァレクの表情が固まる。
「…行くぞ、ヴァレク」
「…仕方ない」
二人は呟き、ヴァレクは使用武器の
「がぁぁ…!」
ヴァレクが唐突に苦しみだすが、それを見てマニュレイは薄ら笑いを浮かべ、まるで指示するかのように
「じゃ、こいつ倒しといて」
と、放った直後、マニュレイの姿が唐突に消えた。
「な…」
ロクスが驚いたのも束の間、数多のエネルギー弾が、ロクスの右腕を吹き飛ばした。
「ぐっ…」
ロクスは遊撃隊のため、一歩間違えると全員の目線に晒されることになり殺されかねない。体は頑丈にしておくのが一番いいのだが、どうしても防御能力ではヴァレクに劣ってしまう。不意打ちで撃たれたマシンガンの弾、それも実体のないレーザーのような弾にロクスは、対応することができなかった。
撃たれて怯んだその隙に距離を詰められ、ロクスが目にしたのは、見慣れた高威力のショットガンだった。
(まずい―――)
そう思ったが、腕を吹き飛ばされた反動で後方に仰け反りかけていたロクスは、そのままショットガンの発射を許してしまった。
「がああ!」
胸元に押し当てられたショットガンは、銃内部で炸裂した後に衝撃波をだす特殊なショットガンであり、これにより0距離で発射した場合は、ダメージを与えた上で怯ませ、追撃につなげることが可能となっていた。
「…」
吹き飛ばされたロクスが覗き込んだヴァレクの瞳は、生気のない、まるで人形のような虚ろな目であり、一瞬、ほんの一瞬だけロクスはそれに対して恐怖を抱いた。そしてそれはやがて、マニュレイに対する底なしの憎悪に変わり――ロクスの左手が赤と青の2つの色に輝き出した。
直後、ヴァレクの体に、無数の槍が突き刺さった。
―――
「乗り込むぞ!」
「了解!」
B3司令官イレイズから、マニュレイ、ヴァレク、ロクスが帰還してこないため調査してきてほしいと連絡を受けたカロネスとライの二人は、レーダーに示された三人のスカイマシンを発見していた。
二人が転送機に乗って最初に目に飛び込んだのは、血まみれで倒れているロクスと、無数の槍が突き刺さったヴァレク、そして、爆発寸前のB3製時限爆弾であった。
「逃げ――」
ライが叫ぶも時既に遅し。スカイマシン内にいた4人は、爆発に巻き込まれ、連絡が途絶えてしまった。
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