第18話 曹操〈短歌行〉
酒がある歌うべし
人生いくばくぞ
去る日
對酒當歌
人生幾何
譬如朝露
去日苦多
昂るまま歌うべし
憂い忘れがたく
何を以って解くべき
ただ酒があるのみ
慨當以慷
憂思難忘
何以解憂
惟有杜康
ただ君を思い
君を想い至る
靑靑子衿
悠悠我心
但爲君故
沈吟至今
野の
賓客として出迎えよう
呦呦鹿鳴
食野之苹
我有嘉賓
鼓瑟吹笙
どうしたら取れるだろう
憂いは胸の内より湧いて
涸れることを知らない
明明如月
何時可掇
憂從中來
不可斷絕
野を越え山を越え
語り合おう
旧友のように
越陌度阡
枉用相存
契闊談讌
心念舊恩
月明るく星
寄辺を求め迷い
月明星稀
烏鵲南飛
繞樹三匝
何枝可依
山は高きを
海は深きを厭わず
君を天の民を想う
山不厭高
海不厭深
周公吐哺
天下歸心
【ひとこと】
中学生で知った漢詩シリーズのひとつ。厨二心に孟徳様はカッコ良すぎた……彼の歌を暗記したくて調べるうちに、漢詩の書き下し文はなにやらバリエーションが沢山あるものなのだと知った。(最近知ったが漢詩訓読は自由律詩の走りであるらしい。中学生の当時はただ好きな訓読を求めて探しまわっていたがある種正しかったと言える)。
訳詩については、あちこち書き下しに引き摺られている。むかし暗記しようと躍起になったせいと自覚している。残念ながら中学生の私はこれを丸暗記できなかったのだけど、にも関わらず、何年経っても抜けないものらしい。人間って面白いですね。
この詩は多数の典故を踏まえて詠まれていて、解説がないと難しい。まず「短歌行」は楽府題で、似たものに「長歌行」もある。「行」は歌の意味。詩中も典拠のある句がいっぱいなので書き留めておく[1〜3]。
◯「人生幾何/譬如朝露」後漢・桓帝(在位一四六─一六八)の頃の人である秦嘉の〈贈婦詩三首〉に「
◯「杜康」酒の発明者、転じて酒のこと。 ◯「靑靑子衿/悠悠我心」は『詩経』鄭風の「子衿」より。
◯「幼幼鹿鳴……鼓瑟吹笙」は『詩経』小雅の「鹿鳴」より。なお「呦呦」の読みは「ようよう」「ゆうゆう」二通りあるらしい。
◯「陌」は東西に通る道で「阡」は南北に通る道のこと。古諺「越
◯「心念舊恩」は「旧恩(昔のよしみ)を温めなおそう」の意味らしいが、名士と聞けば登用したいのだから旧友に限るのは違うと思い、ここでは「旧友のように」とした。ただし既に集めた臣下を前に歌ったととる人もいて(ネットすごい!匿名掲示板さまさま!実はかなり参考にした)その場合は「旧恩を温めなおそう」で正しいだろう。
◯烏鵲が南へ飛ぶ理由について解説書では触れられていなかったが『文選』より「胡馬依北風/越
◯「山不厭高/海不厭深」は『管子』の「
◯「周公吐哺」は周公旦が食事中に食べているものを吐き出してまで人に会った故事で『韓詩外伝』巻三には「吾於天下、亦不輕矣。……一飯三
◯「天下歸心」は『論語』堯曰篇より為政者の心得の締めに書かれた「
典故をわんさか入れてくるの好きです。カッコいい。読むのは大変だけれども故に身内ネタ感がある。私も仲間に入れて欲しい……。落とさず読みたいものです。
[5]松枝茂夫 編『中国名詩選』上、岩波文庫、一九八三年
[6]川合康三 編訳『新編 中国名詩選』岩波文庫、二〇一五年
[7]川合康三 編訳『曹操・曹丕・曹植詩文選』岩波書店、二〇二二年
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