第10話 蘇東坡〈和陶飮酒 其一〉

●の行だけ拾って読んでください。

●は蘇東坡(蘇軾)の「和陶飮酒 其一」訳詩、◯は陶淵明の「飲酒 其一」の訳詩です。


 ◯さかえ おとろえ またさかえ

 ●とう せんせいは すばらしな

 ◯どちら ぐるぐる めぐるもの

 ●われは ぐるぐる なやむもの


 ◯ショウシはたけに うりうえて

 ●われとは ちがい せんせいは

 ◯トウリョウコウと おおちがい

 ●いかに くらして おられるか


 ◯さむい あついも まためぐり

 ●いばらの おおう しろをじし

 ◯ひとの かふくも またおなじ

 ●いごこちの よい くさのいお


 ◯その ことわりを かいすれば

 ●さけで えたるは このさとり

 ◯さきざき うれう こともなし

 ●なるほど うれう こともなし


 ◯この いっぱいの ぐうぜんを

 ●のきの たまみず きくままに

 ◯ゆうひと ともに よろこぼう

 ●おちょことともに よろこぼう


我不如陶生

世事纏綿之

云何得一適

亦有如生時

寸田無荊棘

佳處正在茲

縱心與事往

所遇無復疑

偶得酒中趣

空杯亦常持


【ひとこと】

 陶淵明のファンというと私の中では白楽天だったが、蘇東坡も相当のファンであると知ったので。これはその蘇東坡が陶淵明の詩の偶数句の末尾を拾って詩を作ったもの。

◯とう せんせい 陶淵明先生のこと。

◯ いばらの おおう しろをじし〜

 茨の覆う城を辞し居心地の良い草の庵。

 寸田は狭い土地、転じて心のことで元の詩は「心に棘のないのがいい」という意味らしいが、住まいとして訳してきた。

◯ のきの たまみず きくままに

 軒の玉水聞くままに。ここでは酒を聞く(利き酒をする)暗喩のつもり。

 解説しておくと道元先生の道歌「聞くままに また心なき 身にしあらば 己れなりけり 軒の玉水」を拝借してます。玉水(雨だれの美称)の音を聞くうち、いつのまにか雨だれと一体になっていたと、ふと我に返った時に気づく……と岡潔氏なら真面目な悟りとして読むんでしょうが、白楽天なら茶化してなんぼ。「仏法は醍醐をめ、仙方は沆瀣こうがいを誇る。未だかず卯時の酒」ってなもんで我田引水して酒飲みの歌にするのが面白……あ、あれ?これ蘇東坡の詩だったわ……。蘇東坡せんせはそういう遊びをするんですかね……?ま、まぁ「偶々たまたま得たり酒中の趣」だし?きっとやるよね。ところで福岡には「玉水」という日本酒があるそうですね。飲んでみたいものです。

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