第7話 龔自珍〈己亥雜詩 其五〉
浩蕩離愁白日斜
吟鞭東指卽天涯
落紅不是無情󠄁物
化作春泥更護花
落椿 春のつぼみをはぐくまむ
◇ ◇ ◇
むかし男ありけり。白日斜めなる
『漢詩清響 - 訳詩と注釈』[1]の中に漢詩一首を一句に仕立てているものがあり、えらくカッコいい。ならばと私も一句つくってみた。ただし私は俳句の素養がない。川柳といえば許されるのかもよく知らないが、とにかく許されたい。(要するに季語被りを怒られても困る。)素養のある人がこの龔自珍の詩を元に詠んだ句や歌ならばいくらでも読みたいので一言物申したい方は是非詩作されたし。
この詩も「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」で知った。資料が多くないので列挙しておく[2〜3]。
はじめ「落椿」として訳したが、この詩人が落花という時、それは花海棠のことらしい[4]。ソメイヨシノの後に咲き、八重桜のような濃いピンク色で、花柄が長く垂れ下がって咲く花。葉と花が同時に出る低木で、ぽつぽつ見かける印象しかなかったが、大陸のそれはまるで桜のように公園一面、視界の限り海棠であったりするようだ。詩人も花見が好きらしい。ただし盛りを過ぎて振り敷いた花弁が大地を紅くするのを見に行くのがこの人の花見なのだとか。ならばと作ったのが先の序文と短歌。また「落紅化春泥──落紅、春泥と化す」[3]には遠いが左の歌も作った。
白日は斜めなりや
海棠、街道。字足らず。
余談になるが『白日、斜めなり』という短編小説がある([5]に収録)。曹操や曹丕らが建てた魏の皇族の血縁でありながら、司馬懿のクーデターで蜀漢に亡命した夏侯覇(彼は蜀漢の皇室にも血縁関係がある)を主人公とした作品であり面白い。二首めの短歌は多少この夏侯覇のイメージに引き摺られている。彼の場合、指したのは北で、東ではなかったが。
[1]和田利男『漢詩清響 - 訳詩と注釈』めるくまーる社、一九八五年
[2]田中謙二 注、吉川幸次郎, 小川環樹 編集・校閲『龔自珍 中國詩人選集二集』岩波書店、一九六二年
[3]松浦友久『中国名詩集(美の歳月)』朝日新聞社、一九九二年
[4]竹村 則行「『己亥雑詩』に現れた龔自珍の「落花」意識」『日本中國學會報』(通号 30) 一九七八年
https://spc.jst.go.jp/cad/literatures/download/1812
[5]田中 芳樹『長江落日賦』祥伝社、一九九九年
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