第1.5話

 サヴェロが謎の少女と喋る剣を連れて立ち去ってから数時間後、銀色の落下物のせいで砂漠にできたクレーターの周りには戦闘服を着こみ、小銃を携えたリモローク帝国兵の姿があった。




「こちら第三捜索隊。目標を発見しました」




 一人の兵士が無線機を使い、上部へ現状を報告する。




「目標は開かれており、もぬけの殻です。それと、微かではありますが現場にはここから走り去った四輪車と思われるものの跡が残っています。如何いたしますか?」




 上官へ指示を仰ぐ兵士。何かしらの指示が出ているのか時折「はい……はい……」と返事をする。




「了解しました。通信を終わります」




 通信を終えた兵士は無線を切ると、待機していた仲間の方に振り返る。




「これより二班にわかれる。片方は目標の追跡にあたり、もう片方はここに残り落下物の調査にあたる。他の隊も二班にわかれ同じく任務を行うが、当然目標の捜索に人員を割く。以上だ。皆作戦にとりかかるぞ」




 そう他の兵士に告げると、待機していた兵士達は「はっ!」と返事をしてそれぞれの持ち場にわかれて行った。




 こうして編制された捜索隊の方は、サヴェロの乗っていったバギーの轍を追い、ナウィートの首都バハマに向け出発した。






――リモローク帝国軍事作戦本部




 目標を発見したという部下から報告を受けた兵士は、無線を切ると後ろを振り返った。




「エリス様。捜索隊が目標を発見したとの事です。ですが、目標の中身は行方不明であり、引き続き捜索にあたらせています」




 兵士が振り返った先にいたのは、銀色の仮面を被った男エリスであった。エリスはその報告を聴くと軽く頷き「そうですか」と冷静な声で答えた。




「落下してからそれほど時間は経っていません。そう遠くまで移動する事は出来ないでしょう……しかし、ナィートですか……」




 冷静だったエリスの声が微かに上擦る。




「他の国に落下していたらかなり面倒なことになっていたでしょうが、ナィートには駐留している帝国兵がいますからね。非常に助かりましたよ。やはり二十年前の戦争は無駄ではなかった」




 エリスは窓の外に視線を向け「くくく」と下卑た笑い声を漏らす。一方、エリスが言った「二十年前の戦争」という言葉を聞いた中年の兵士は、エリスには見えないところで表情を曇らせた。




 今から二十年前、世界を巻き込んだ大きな戦争が行われていた。大国リモローク帝国と国土は小さいが当時最先端の科学技術を有していたミルーアとの大戦。




 誰もが数で勝るリモロークの圧勝で終わると思われていた戦争であったが、その予想に反し新型兵器を駆使するミルーアがリモロークを圧倒していた。




 戦争は長引き、膠着状態が続いていたが、最後は資源の乏しいミルーアが先に音を上げ五年にも及ぶ戦争は終結した。




 戦時中、ナウィートはミルーアの支配下に置かれていたが、終戦後はリモロークの植民地となる。その後、ナウィートは独立を果たし、現在に至った。




 独立した後も、リモローク帝国は国防という名目でナウィートに軍を駐留させている。




「ともあれ、目標はすぐそこです。貴方達も気を緩めず、引き締めて作戦にかかりなさい」




 エリスは振り向きざまに中年の兵士にそう伝えると、中年の兵士は「はっ」と敬礼し、現地の兵と交信するためにエリスの部屋を後にした。それを見届けたエリスはもう一度窓の外に視線を向けた。


帝国から遠く離れたナウィートを見るように。


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