第14話

 夏場の天気は相変わらずで、今日も刺すような日差しが体中に降り注ぐ。白い帽子を被ってきてよかったと、安堵する美和。ここ数年の日差しは、浴び続けると軽い火傷を負うこともある。

 現在美和がいるのは、多くの人が行き交う六本木だった。明日は律子が帰国するため、前日に少しだけ遊ぼうと本人から誘われたのだ。帰国の準備があるのではないかと尋ねたら、そんなに荷物があるわけではないと言われたため快諾した。

「ごめんごめん、遅れて」

「律子さん?」

「ん?」

 地下鉄の入り口からではなく、別方向から現れたことも疑問だったが、律子の姿も普段とは違っていた。

「今日はドレスなのですか?」

「ええ、真っ黒なドレスよ」

「とてもお似合いです。でも今日はどこに行くのですか?」

「かしこまらないといけない場所よ。よしよし」

 美和の姿を確認して、満足そうに頷く律子。夏場に似合う白いワンピースに帽子、美和にはとてもよく合っていた。

「ちゃーんと着てきたわね」

「律子さんの服の色と対照的すぎて……目立ちませんか?」

「いいのよいいのよ、ほら行くわよ」

「あの、どこに?」

 疑問が尽きることはない。今日は六本木に待ち合わせとしか聞いていないのだ。

「美和がとーっても喜ぶところよ」

 意地悪げではあるが、とても嬉しそうに律子は笑うのだった。



「なあ、律子と過ごさなくていいのか?」

「お前はおとなしく座ってろ」

 都心部の車の多さは半端ではない、集中しなければ事故に繋がる。後部座席に座る海の言葉を半ば無視していなければ危ない。

 ようやく赤信号で止まることができて、雄太は一息ついた。

「しかも男同士でスーツってなんだ」

「仕方ないだろ、律子が写真欲しいって言ったんだからな」

「なんでそんな写真いるかな……美和と律子は二人で出かけるし」

「女同士で出かけたいところがあるんだろ? 美和ちゃんにもそう言われたんだろ?」

「でもなぁ、それを別にしても」

「おじさん用なんだから仕方ないだろうが」

 確かに、と頭をぽりぽりとかく海。時々らしいのだが、出張中の父親と律子は会うことがあるらしい。一時帰国の際は嫁の写真多めと一応息子のもと注文され、美和と遊んだ日にはやけに律子は写真を多く撮っていた。自分自身も欲しいのもあるが、自分の父親の分もあるとなると、律子に迷惑をかけてるのをやめろと説教もしたくなる。

「少しは親孝行したらどうだ? 美和ちゃんにも言われたろ?」

「ずるい言い方するなよ」

 嫁に言われて、海はそう簡単に断ることができないことを知っている。

「で、どこで写真撮るんだ?」

「ああ、あそこだ」

 ビルや店舗、カフェが並ぶ先になぜかぽつんと建っている少し大きめの建物があった。その裏手に車を走らせ、駐車場に車を留める。

 海は驚いて車から飛び出し、雄太を凝視する。

「なんだ、雄太結婚するのか」

「なんでそういう結論に達するんだ、お前は」

「だって流れ的にそう思わないか?」

 互いにスーツ姿で、目の前にある建物を見ると、海の中ではそういう結論に達するしかなかった。

「俺はまだ結婚予定はないよ。する気はあるけどな」

「じゃあこの中に写真館あるとか?」

「あるにはあるな」

「でもここである必要はないだろ?」

 海はわけがわからず、建物を見上げた。

「なんで教会なんだよ」

「ほら、黙ってこい」

 強引に海の腕を引っ張りあげ、教会内の一室へと海を閉じこめた。

「はーい、いらっしゃい、海くん」

「へ?」

 入った瞬間、明るい声で迎えたのは律子の母親である美奈子だった。海と美和も世話になっている人物で、海と美和の夫婦にとって良き理解者の一人でもある。幼顔のせいか若く見えるが、実は五十歳を過ぎている。

「ご無沙汰してますけど、どうしたんです、美奈子さ……ぬあ!?」

 乱暴にスーツの上着を裕太によって脱がされる海、その隙に目の前に詰め寄ってくる美奈子。

「何するんだよ、雄太は! それに美奈子さん、その顔……」

「覚悟してね~」

「え、あ、ちょっ、のあーー!」

 強引に服を脱がされて、絶叫する海。わかっていたとはいえ、申し訳ないと心の中で静かに詫びる雄太だった。

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