第2話

 海の台詞に男たちは一斉に笑い出した。普通はその反応だろう、と雄太は頭を抱えながら、この場をどう脱出するかを考え始めていた。

 警察を呼んだら大騒ぎになるし、強引に間に入ったら余計にややこしくなるだろう。

「お前、バカか?」

「お前らのほうが馬鹿だろうが!」

 力いっぱい男たちを押しのけ、男たちに囲まれていた美和を抱き寄せる。不安そうに海を見つめる美和、安心させるために肩を軽く叩いた。

「何が嫁だ! 頭おかしいんじゃねえのかよ?」

「だから嫁だ!」

 言葉に耳を貸さない男たち、意地になって訴える海。このままではこの場がおさまらない。

 怪我覚悟で間に入るしかないか、と雄太は足を一歩踏み出した瞬間。

「嫁ですよ」

 美和の可愛らしい声が響き渡る。微笑みながら告げた一言に、男たちの笑いが一斉に止まった。

「私はこの方の嫁です」

「……この女も頭おかしいのか?」

 美人だが言っていることがまともだとは思えない。しかしどう見ても、真剣に彼女は言っているのだ。

 ひそひそと相談をして、悪態をつきながら男たちはその場を去っていった。同時に少しずつギャラリーも減り、その場に残ったのは海と美和、それに駆けつけた雄太だけとなった。

 そして雄太は二人を強引に喫茶店へと連れ込み、海は説教を受けることとなってしまった。

「大学の奴らは慣れたけど、学校外の学生はまだ知らないだろうが。美和ちゃんのためにもだ」

 今度は水を口に含み、真顔で海に一言。

「もう少し冷静に対処できるようにしろ」

 あまりにも正論すぎて、海は無言で頷いてしまう。

「その覚悟もあったんだろう、お前は」

「……ああ」

「なら堂々と吼えるんじゃなくてな、証明書見せれば一発だろうが」

 まだ免許は持っていないが、健康保険証は携帯している。それに記された名を見れば、二人の関係は一目瞭然だった。

「ちゃんと結婚してるんだから、堂々としつつも冷静に対処しろ」

 雄太は二人にはっきりとした口調で告げた。

 男たちに言った二人の言葉は、気が狂ったわけでも何でもない、正真正銘二人は結婚している。籍は高校卒業してからすぐに入れたことも、雄太は知っていた。

 だからこそ堂々としていろ、と言ったのだ。

「できないなら別れることになるかもしれないんだぞ?」

「俺たちの仲は裂けるか!」

 店中に響き渡る海の声、その反論に雄太は盛大なため息をつくしかなかったのだった。



 雄太が言った言葉は真実で、目の前の二人の名は喜多見 海と喜多見 美和。正真正銘、籍を入れて結婚をしている。

 海の母はすでに亡くなり、父親は海外に単身赴任をしている。

 美和の両親は一年前、事故で命を落とした。

 

 過去の悲劇が重なり、結婚という幸せに至るまでの二人の苦労を雄太は知っている。

 そして本人たちはそれ以上に、深く理解していた。

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