第46話 伝説
見たこともない女性の神威衛士だった。年齢は三十歳手前、長く伸ばした青色の髪をたゆたわせ、間に立つ神威衛士達はおのずと道をあける。それはかつて、テトラがタイチの前に現れた光景を彷彿とさせた。
「君が戦う必要はない」
「えっと、あなたは?」
「何を言うか! この方は紫位の神威衛士、コトミ=ハウスタイン様であるぞ」
エリーレ、マクスファーに続く三人目の紫位の神威衛士、コトミ=ハウスタインはまるでタイチをよく知っているように温和な顔で接する。
「ノルガ=ギストリはエリーレさんと私で何とかするから」
「でも俺だって・・・・・・」
「七階説の神威衛士とでもいうつもり?」
その言葉を聞いて議場にざわめきが起こる。
「どうしてそれを?」
「マクスファーは君が七階説の神玉を持っていると信じ込んでいるけど、君の神玉は紛れもなく青位よ」
コトミは決然と答えた。
「ちょ、ちょっと待って下さい! どうしてそう言い切れるんですか?」
「わかるわ。君のその神玉は、私の妹のものだったからよ」
「妹って」
タイチが息を呑む間にコトミは語り始める。
「テトラ=ハウスタイン、それが君の知っている神威衛士よ。ハウスタイン家にはね、紫位と青位の神玉の両方が受け継がれていてね、長女である私が紫位を、テトラが青位をそれぞれ同化することになったの」
「そういえば、テトラ姉ちゃんには赤の帝都に姉が一人いるって」
「でも、君と私は初対面ではないわよ。君の見たダン=ギストリの幻鬼を仕留めたのはこの私。つまり、私こそがノルガ=ギストリの究極の標的よ。だからこの戦いには私が欠かせない。それに君は、テトラが最期に命を懸けて守ろうとしたんだもの。私は君を戦いに巻き込むわけにはいかないわ」
「でも、テトラ姉ちゃんは俺に皆を守ってくれって」
「忘れないで。皆の中には君自身も含まれているのよ」
「それでは、ノルガ=ギストリとのカニバリズムにはエリーレ殿とコトミ様の両名ということで?」
「巻き込んでしまって申し訳ないわね。でも、紫位の幻鬼に私一人では心細くてね」
コトミはエリーレに申し訳なさそうな顔をした。
「気にしないわ」
二人の紫位の神威衛士は、万雷の拍手の中で因縁の渦中へと巻き込まれていくのだった。
エリーレに加えてコトミが参戦したことで、神威衛士には少しばかり希望が戻り始めていた。
「何か用?」
タイチの前のエリーレは相変わらず悠然としていた。カニバリズムの準備は粛々と進められ、明日の夕刻には開催される予定である。
「エリーレさん、すいません。こんな事になってしまって」
「仕方ないわ。君だって被害者の側でしょう?」
エリーレは顔色を変えずに返す。
「でも、エリーレさんにとってはもっと迷惑な話で」
「気を遣わなくていいわ。それに、前にも言ったでしょう? 私は呪われた剣鬼なの。本来ならば神威衛士にとって忌むべき存在よ。人から神玉を奪ってまで神威衛士になったんだから。自業自得よ」
「エリーレさん?」
「ねえ、時間あるでしょ? ちょっと来て」
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