第44話 新体制

 誰一人として犠牲が出ていないにもかかわらず、セントラル・コミュニティは人気が無くなったように閑散としていた。神威衛士を目指していた候補生の多くが学院を去り、挙句の果てには本業の神威衛士の中にまで行方のつかめない者が続出する有様である。これは紫位のノルガ=ギストリが神威衛士全員を相手取るカニバリズムを申し込んできたことに加え、彼によって故マラダイト=キングレーが宥和政策を望んでいたことが暴露されたことによる。

「まさか私達、マクスファーに騙されて戦わされていたなんて」

 イシュメルが深沈とした顔で溜息をつく。その横で固い何かがぶつかる音が聞こえた。この状況に耐えかねたアーロが壁に拳をぶつけたのである。

「くそっ!」

「ねえ、これからどうする?」

 イシュメルが顔を上げた。

「本当は私達、幻鬼術師とここまで争う必要はなかったのよ。でもマクスファーは紫位の神玉を自分の力で取り戻すために神威衛士全体を巻き込むカニバリズムを続けた。その結果がノルガ=ギストリという過激な幻鬼術師の台頭を許してしまった。彼は本気で私達を消し去ろうとしている。これ以上私達が戦い続ける必要なんて有るの? 神威衛士と幻鬼術師の軋轢がここまでにならなかったら、兄さんだって・・・・・・」

「俺もな、何だかもううんざりしちまったぜ。上位の神玉を持つ神威衛士に馬鹿にされたくない一心でここまで戦ってきたのに、結局マクスファーの掌で踊らされていたなんてよ。今考えても腹が立つ!」

「タイチはどうするの?」

「俺は残る」

「まだそんなこと言っているのかよ?」

「ノルガを放っておけば仲間の誰かが犠牲になる。それに、アイツの父親は神威衛士だけでなく村そのものを滅ぼしたんだ。赤の帝都で同じことが起きればそれこそ何万の人が同じ目に遭う」

「でも勝てるのかよ? 黄位のイエロードッグだってあんなに強かったんだぜ?」

 アーロは自身の傷に目を落とす。イエロードッグに負わされた傷痕は神玉の力でもまだ完全には癒えていない。

「だから俺が行かなきゃならないんだ」

「何言っているの? タイチは確かに強いけど、紫位の神玉はタイチより上なのよ」

「しかもノルガは四人の精鋭の幻鬼術師を連れてくるんだろ?」

「実はそうじゃないんだ。俺の身体にはもしかすると紫位の神玉を超える力が宿っているかもしれない」

「何だって?」

 アーロとイシュメルが同時に聞き返した。

「おい、お前ら」

 突然後ろから声を掛けられた。真正身分の神威衛士が三人に近づいてくる。

「もうすぐ集会が始まる。全員講堂へ集合しろ」

 彼はそれだけ伝えると踵を返し、手持無沙汰の他の神威衛士に駆け寄った。

「とにかく俺なら出来る」

 タイチはこの時宿命を感じていた。自分に託された神玉はこの時に使うためのものだということを。

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