第42話 激戦
「よかろう。やれ、デビルホーク!」
待機していたデビルホークが大きな鍵爪を全面に出しながらタイチの前で羽ばたいた。剣のような鋭い一閃が三本同時に襲い掛かる。タイチはそれをヴィルテュの剣で受けながら、見出した一瞬の隙をついてデビルホークの足に鎖を絡めた。自由を奪われたデビルホークは地に叩きつけられる。そのままタイチは足掻く幻鬼に銀色の一閃を浴びせようとした。
「させはせぬ!」
タイチの頭上にデビルホークよりも更に大きな鍵爪が振り下ろされる。タイチは一度デビルホークから間合いを取ったが、すぐ近くを掠めた爪が鎖を巻き取ろうとする。
「このまま引きずり込んでくれよう」
抗いようもない強大な力がヴィルテュを引き付ける。そしてタイチの前でシェルリザードが大口を開くと、その先に燃え盛る火焔の明かりと熱線が顔に浴びせられた。
「伏せろ!」
その瞬間、遠雷に似た爆音が周囲に轟いた。火焔によって急激に熱せられた空気が膨張したせいだ。そしてタイチの視界は赤と黄色の焔の世界に閉ざされる。身を低くかがめなければ上半身を焼き尽くされてもおかしくなかった。それで直接炎を浴びていないにしても、伝わる熱が喉をひりつかせた。
「ほう、この火焔地獄を生き残るとはの」
タイチは熱せられたヴィルテュの鎖を手繰り寄せる。鎖は異様に軽かった。よく見れば鎖分銅の先端は炎の熱で溶損し、分銅が見当たらない。
「どうやらお主はマクスファー=エンゲルトよりも格上のようじゃ」
マクスファーは歯を食いしばる。
「そうなると、お主の神玉等級は・・・・・・」
「渡してなるものか!」
マクスファーの斬撃がマラダイトの言葉を遮る。その剣はデビルホークの片腕によって防がれた。
「その焦りよう。さては」
利発なマラダイトは気が付いたようだ。タイチが宿す神玉の秘密を。
「タイチ、ここは俺に任せろ!」
マクスファーは死に物狂いだった。デビルホークの腕から剣を取り戻すと、満身創痍にもかかわらず神玉の全ての力を解放するかのようにエッセンスを連発させる。しかもその多くが神威衛士の身体にとって負担の大きい《撃力》系の技だった。捨て鉢の甲斐あって、優勢だったデビルホークは次第に追い詰められていく。
「そこだ!」
マクスファーの斬撃が鍵爪を翻弄し、その隙を縫った返しの太刀がデビルホークの片腕を斬り飛ばした。
「小癪な!」
デビルホークは身を低くかがめて翼でマクスファーを叩きつける。敵を遠ざけはしたものの、デビルホークには次を考える余裕はなかった。マクスファーの猛攻を遠ざけるのに汲々としていたのである。
「後ろだ!」
ノルガの叫びが届くより早く、後ろを突いたタイチがデビルホークに鎖の切れたヴィルテュを振り下ろす。更にその後ろをマラダイトのシェルリザードが大顎でタイチを噛み殺そうとした。
「行けえ!」
デビルホークに浅い斬撃を浴びせたタイチはすぐさま身を引いた。振り返るデビルホークの視界にシェルリザードの牙の鋭鋒が飛び込んでくる。そこから先はタイチの思惑通りに同士討ちになったのか、砂塵が激しくて何もわからなかった。
「中々やりおる」
自分より数十年も若い神威衛士に出し抜かれたマラダイトの声はやや上擦っていた。そのわずかな心理の乱れが命取りになるのを彼は直前まで知らなかった。
「ぐはっ!」
背中に強い痛みを覚えたマラダイトは自身の腹部から突き出る剣の先端を見た。しかしそれは神威衛士のものではない。ノルガが外套の下に隠していたものだった。
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