第40話 制裁
「貴様らのような愚鈍な神威衛士を神が嘉したとでもいうのか?」
「何だ、お前は!」
手傷を負ったマクスファーは剣呑な表情で見知らぬ幻鬼術師に構えた。
「我が名はノルガ=ギストリ。貴様ら神威衛士に汚名を着せられた挙句に不名誉な最期を強いられた父、ダン=ギストリの遺児である」
「ダン=ギストリだと?」
マクスファーは当惑した顔をした。この幻鬼術師が一体何を言っているのか全く理解していないという顔だ。
「父の名を聞いても思い出さぬか?」
「ノルガよ。お主の父が神威衛士に討たれたのは十年前のことよ。あの若造の都市では知るはずもなかろう」
「認めん。俺の父をそうたやすく忘れさせてなるものか! この身に宿る積年の復讐を、今こそ貴様の身体に刻みつけてやろう! 行け! デビルホーク!!」
デビルホークが砂塵の帳を立てて舞い上がる。観客席の最上部分まで上昇すると、そこから翼を硬直させてまっしぐらに急降下する。
「そんな見え透いた攻撃パターンで!」
マクスファーはデビルホークの動きを読んでいた。頭上目がけて降下すると同時に鍵爪で首を刈ろうとする算段なのだと。だからデビルホークが肉迫する前にマクスファーはエッセンスを《発散》させる。
「烈風断斬!!」
マクスファーが大剣で巻き起こした一陣風が次第に大きな衝撃波に成長してデビルホークを迎え撃つ。超速で激突した直後、同心円状に広がる爆風が観客の視界を奪う。
「やったか?」
砂塵の幕が落ち着いた頃、マクスファーは上空を仰ぐ。デビルホークらしき鳥の影は見当たらなかった。
「ふん、この程度の雑魚にかまけている暇はないな。それにしても、どうして空がこんなに暗いのだろう」
いい加減砂嵐も落ち着くはずであり、今日は快晴のはずである。ところがマクスファーの周囲は曇天の夕方と同じ位薄暗い。
「まさか!」
その時マクスファーは知ったのだった。デビルホークと自身のエッセンスの間を壁のように阻むシェルリザードの巨大な翼が空一面を覆うように広がっていたのを。
「忘れたかの。これは二対一の戦いじゃよ」
マラダイトがなだめるような口調で言う。そして翼を畳んだシェルリザードの背後には依然としてデビルホークが空に君臨しているのだった。
「馬鹿な。そんな巨体でその敏捷さは有り得ない」
マクスファーはマラダイトとノルガという、二人の幻鬼術師にカニバリズムを申し込んだのである。今更になって他方の助勢を非難するわけにはいかない。
「殺してくれ」
マクスファーは俯きながら言った。
「出来ればお主を殺したくはなかったのだが、やむを得まい。レイナ=ニューギルへの手向けじゃ」
「くっ・・・・・・!!」
マクスファーの顔は無念と後悔に歪む。止めを刺すのはノルガの仕事らしい。デビルホークに向かって示すように杖の先をマクスファーに向ける。
「行け!」
デビルホークが中断していた滑空を再開した時である。金物の音を聞き取ったデビルホークはマクスファーから軌道修正せざるを得なかった。
「何だ?」
ノルガが見上げると一本の銀色の鎖がデビルホークに向かって伸びていくのを眺めた。やがて鎖は巨大な円弧を描いて先端の分銅はタイチの手に戻る。
「ここまで来て諦めるなよ。その神玉を敵に渡すつもりか?」
膝をつくマクスファーの背後から、鎖を手繰り寄せながらタイチが歩み寄った。
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