第5話 秘密の情報屋

 テイセリス帝国の帝都、デリトポリスはデリト石と呼ばれる石を建造物の素地とした都市である。見た目は質素な黄土色の岩石だが、強度に優れ、風雨の浸食に耐えることから、身分の高低を問わず人々の住いに重宝されており、個々の建物の歴史は古い。土壁のようなその石は夕日に赤く映える。それがこの都市を別名、赤の帝都と呼ぶゆえんである。

 行商人の紹介の下、タイチは帝都を横断する河川の岸辺で待ち人を待った。情報屋というのは何よりも自分の情報を大事に秘匿する。だから居場所も素性も知られなくて、何でもないこの場所を選んだのだろう。帝都を行き交う多様な人の群れと、木の葉のように川を下る船を何度か見送った。

「こんにちは、ちょっといいですか? お兄さん」

陽気な雰囲気を漂わせ、桃色の短い髪をサクランボのような髪留めで二つにまとめる少女が愛嬌のある声で話し掛けてきた。歳はタイチと同じかあるいはそれより上といったところか。一見普通の町娘で、特に如何わしい商売をしているわけでもなさそうだ。

「悪いけど俺、ここで人を待っているんだ」

「それは情報畑の人のことですか?」

 タイチは動揺を表情に出して少女の顔を見据える。少女はいたずらっぽく微笑した。

「君が?」

「そうです。私が神威衛士の方々に贔屓にして頂いている情報屋でーす。ミハ=ランガルといいます。以後お見知りおきを」

「タイチ=トキヤだ」

「赤の帝都に来たのは今日が初めてですか? カニバリズムはまだってことですよね?」

 タイチは頷いた。

「俺はそこで幻鬼と戦いたい。それには君の案内が必要だと聞いた」

「頼まれれば引き受けますけど、すぐにというわけにはいきません」

「何をすればいい?」

「そうですね。まずはこれをどうぞ」

 ミハが差し出したのは一枚の紙きれ。その表面には堂々と『カニバリズム観戦券』と書かれていた。

「待ってくれよ。俺はカニバリズムで戦いに来たんだ」

「いいから。まずはカニバリズムがどういうものかをその目で確かめることです。あなたのように神威衛士を志願する人の半分は、カニバリズムの凄まじさを確かめてください。別にカニバリズムは減るわけではありません。神威衛士のあなたにとって、敵は多すぎるほどいますから」

 要するに、ミハはタイチの度量を試しているのだ。カニバリズムに怖気ついて、中途半端に辞退を申し出るのを避けるために。だがタイチが既に幻鬼の恐ろしさをその身をもって体験しているのを、ミハは知る由もないのである。

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