12/2 ピンクのシフォンケーキ【VS 無口】
オーブンから取り出したシフォンケーキは、ふんわり甘い湯気を立てている。いい感じの焼き上がりだ。
良かった! 今年はホウくんに手作りできそう!
私は色こそショッキングピンクだけど、きれいに膨らんだ出来に満足した。しっとりと温かいケーキの端を摘まんで食べると、大成功の味。思わずスマホを取りだしてホウくん――彼氏に報告しそうになって、慌ててやめた。も少しだけ内緒にしておこう。
去年は受験でクリスマスなんて言ってられなくて、ささやかなプレゼント交換で終わっちゃったことをずっと悔しいと思っていた。だから今年は去年の分も盛大にお祝いして楽しみたい。大学生になってからはバイトもしてるから、プレゼント資金も万端だ。
ホウくん欲しいものあるかな。選びに行きたいけど……聞いてからの方がいいかな。でもホウくん相変わらず無口だからそんなこと教えてくれないかな……。
はぁ、とため息が出た。
高校生のときは無口だけどしっかり者のホウくんが好きだった。付き合い始めてからも口数は少なかったけど、少しずつホウくんからも話しかけてくれるようになるのが嬉しかった。
でも……本当はもっとおしゃべりしたい。もっと考えてること、教えてほしい……。
大学のカレカノ同士が軽口を叩き合ったり、ケンカで言い合ったりしているのを見ると羨ましい。ホウくんとは同じ地元だけど違う大学。昼間は会えないことも無理なことを求めてしまう理由だと分かってはいた。
たぶんケーキはチョコ味が好きなんだよなぁ、とシフォンケーキを見下ろす。私だって、ただホウくんと付き合ってたわけじゃない。ちょっとの表情の変化も察することができるようになってはいた。なってはいたけど。
このままだともしかしたら、クリスマスの予定も私が聞くことになりそうだな。切ない気分になったときだった。
スマホが鳴った。ホウくん!? と色めき立ったら高校の同級生の
「もしもし!」
「あぁミィ。久しぶり何してたー?」
「シフォンケーキ焼いてた。元気ー? 結構上手にできたんだよ!」
「へぇ。何色?」
私は思わずぐっと詰まって、ピンクと答えた。けらけらとスマホ越しに優花ちゃんが笑って、私は何となく悲しくなる。
「笑わないでよー」
「ごめんごめん! ミィのお菓子のビビット感思い出してさ……え? ちょ、泣かないでよ冗談だったのに! ごめんミィ」
「うぅ……ちがう、そうじゃないの優花ちゃぁん!」
こんな風にホウくんとおしゃべりしたい。ちょっとディスって怒ったり、冗談だよって言われて笑い合ったりしたい!
えぇー? と戸惑うような声がして、私は泣きやまなきゃと鼻をすすった。
ピンクのケーキがぼやけて見えて、やっぱり、美味しくなさそうだと思った。
(了)
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『緑のアップルパイ VS 無口男子』
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