第38話
フューラー・マキシマム襲来の告知で、チームは一気に燃え上がった。
「
セコのバトラー・キャスが踵を揃えて発した号令は、ジョシュアが好みそうな「注目」を意味する言葉である。
ジョシュアを始めに全員が気を付けの姿勢を取ると、セコは「ありがとう」と笑ってみもた。
「目標が意外に早く来てくれた。目標は当然、このフューラー・マキシマム」
HMDには自分が狩った事があるか、眼前にいるモンスターしか表示させられないため、フューラー・マキシマムの姿を全員が見る事はできないが。
「いった通り、フューラー・マキシマムは、甲板背負ってるドラゴンだと思ってくれればいいよ。本当にそんな格好してる」
外見を表示させるまでもないというのは、一度でもフューラー・マキシマムを見た事がある5人は頷ける話だ。
「そして倒し方も、よく似てるよ」
セコが笑みを向ける相手は、フォートレス・エンペラーの急所を露出させ、必殺の一撃を加える契機も作ったイーグル。
「今時の倒し方は、最高速でひたすら爆弾投下して、飛竜が来ても無視して街を往復し続ける事じゃな」
イーグルが自嘲気味なのは、自分が得意とする急降下爆撃と、効率重視のプレーヤーが乱発する
「いずれ急所に辿り着けるからの。いつ辿り着いたのか、誰が打ち抜いたのかもわからん勝利になるが」
自分の技術と同一視するなと思うのは仕方がないが、イーグルの声が熱を帯び始めると、モモが眉をハの字にして割り込む。
「まぁ、まぁ。おじ様、熱くならないで下さい」
このメンバーで実行する作戦ではない。
「このメンバーで爆撃オンリーなんて、バカげてますわ。特にジョッシュが苦手でしょう?」
その通りだとジョシュアは肩を竦める。
「あんまりボク向きの仕事じゃナイよ」
現実に存在する戦闘機F-14をイメージしているというジョシュアの航空機は、空戦特化だ。爆撃もできない事はないが、ジョシュア自身がやりたい役目ではない。
しかし、それは心配するまでもない事である。
セコが想定する作戦ではないのだ。
「6人はギリギリのメンバー数だと私も思うんだ。だから、最高速でカッ飛んで爆撃オンリー、飛竜が来たら無視して街まで逃げて再出撃……なんて作戦は執る意味がない」
人数がいるからこそできる事。
「ビル火災にバケツリレーするようなものさ。それより、手順を決めよう」
セコはHMDに表示させるのではなく、部室にあるホワイトボードにペンを走らせる。
「第一波はオヤッサン」
セコが挙げた一番槍に挙げたのは、当然、チームで一番の巧者・イーグル。当然、役目は――、
「フューラー・マキシマムへ攻撃」
それしかない。
「一発目だからね。20トン爆弾で狙ってほしい」
「おう、任せておけ!」
イーグルはパンッと右の二の腕を左手で叩いて鳴らし、その右肘へセコは自分の身が肘を当てる。
「第一波の援護は私がつく」
第一波はチームを代表する一撃になるという事だ。
そして続く第二波は――、
「
これはいわれた綾音に、驚いた様な風で目を瞬かせる。
「私? もも姫やヨウさんも、爆撃ができるでしょう?」
自分の出番ではないと思っていた。綾音は航空機を所持していない。
「もも姫やヨウくんは爆撃するんじゃないの?」
「いいえ。綾音様、お願い。狙いを付けなければ、綾音様の弓は1分間に20発以上、爆弾を飛ばせられるでしょう?」
綾音が使う爆弾は航空機用ではなく、飽くまでも手投げ弾であるが、それ故に1分間に20回の投擲は可能だ。
「援護はモモ姫」
この組み合わせも、順当というべきだろう。
「はい」
モモは返事をして、綾音の腕を抱き寄せた。
「頑張りましょう、
「うん」
綾音の返事は短いが、拒否ではない。
二人が決まれば、セコは次へ進む。
「そして第三波は、補給から戻ったオヤッサンに頼む。今度は状況によっては攻撃機としての役割も必要になるだろうから、20トン爆弾はなしでお願い」
いいながら、セコもこの辺りになれば手順通りの戦いなどできていない、混戦状態になっていると予想している。
しかし乱戦になれば強いのが、空戦のベテランだ。
「ジョッシュとヨウくんは、遊撃して。飛竜は絶対に上がってくる。それを片っ端から落とすんだ。シルバーソードの時と同じだよ。飛竜といっても、かなり弱体化されてるから」
「オカシラ、ガッテン!」
ジョッシュは得意分野だと胸を張り、その横でヨウも小さく頷いた。
そんなチームメイトの表情を見て、セコは満足そうに頷く。
「急所を露出させて倒すって手段は、多分、無理」
頼もしいメンバーが集まったと思っているが、それでも尚、とれる手段は限られている。
「やるとしたら、甲板の破壊でダウンさせて、
フューラー・マキシマム限定の撃破方法が存在していた。
「甲板を破壊すると、フューラー・マキシマムは倒れ込む。その時、口が開くから入っていって、奥にある熱素袋を破壊するんだ。破壊できれば背中に脱出口が開くから、そこから出てくる」
それ以外に方法の方法は、セコには思い浮かばない。
そんなチームメイトを見て、ヨウは口元を緩めてしまう。
「何か……何か、初めてです。この雰囲気」
大事な試合前の部室というのは、こういう熱の籠もった雰囲気なのだろうか、と思い出そうとするが、ヨウは、ここまで熱心に部活に励んだ覚えがない。
――セコさんは、レイドボスを狩れたら、自分は何者かになれたといえるっていってたったけ。
セコの言葉を反芻するヨウは、それは自分もだと気付いた。
――もし、フューラー・マキシマムを狩る事ができたら、俺も、何かに熱中できる場所の一員になれるんだ。
世の中を斜めに見て、冷めた言葉を口にしながら、その実、何の身もない言葉ばかりの「オフラインの自分」が、熱い、本当の事をいえる自分になれるのかもも知れない。
「生き残れたら、皆、肩を抱き合って無事を祝おう」
ヨウの言葉には、皆、それぞれの笑みを浮かべさせた。
出撃だ。
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