第8章「趣味装備軍団はレイドを目指す」

第36話

 改めて集まった部室で、セコは居住いずまいを正して自分以外の5人を見遣みやった。


 初心者のヨウ、趣味装備のジョシュアとイーグル、成り切りキャラの綾音あやねとモモという、このゲームではパーティにすら入れてもらえない事がある集団が、セコの集めたチームメンバーだ。


 効率的である事が最優先とされ、皆が皆、航空機を使って絨毯じゅうたん爆撃ばくげきし、飛竜のような迎撃してこようとする敵とは、徹底して交戦を避けるのが正しいとされるプレーヤーの中では否定的に語られるが、セコにとっては文字通り珠玉しゅぎょくである。


「聞いてほしい事があるんだ」


 ヨウ以外のメンバーにとっては、初めていわれる事ではない。


「私には、目標がある」


 このチームをセコが結成した理由だ。


「初心者、趣味装備、成り切りキャラ……そういう人たちを集めて――」


 セコは一度、言葉を置く。


 軽く目を閉じ、天を仰ぐ。


 セコが思い出すのは、メンバーとの出会い。


 あざといといわれるスキンシップが多いモモは、ネカマ疑惑をかけられ、また回復と支援など不必要と断ぜられてパーティから追い出された時だった。航空機を使い、何もかも高高度からの爆撃で終わらせてしまうのだから、支援魔法も回復魔法も必要ないと思うプレーヤーがほとんどであるし、切り札の百烈拳とて、出せば決まる華麗な大技ではない。素手攻撃を百回も繰り返すより、爆弾を一つ、落としてやったら終わる。


 ジョシュアとの出会いは、「日本人以外お断りです!」とパーティをキックされた時だった。ジョシュアは大抵の日本語を話せるが、それでも彼を外国人という「枠」から外す事はできなかった。自分たちが築いてきた不文律、マナー、ルール……そういったものを無視する存在が外国人だと思っている者は、Arms Worldに多い。


 イーグルは初心者だった。戦車、航空機、大きな銃器を欲しがる彼は、パーティ参加の手を上げただけで寄生虫プレーだと罵られていた。


 綾音は何があったかは語ってくれないが、ソロでクエストに挑み、大成功など望めない中を駆けていた。忍者をイメージした綾音の装備は、彼女が忍術と呼ぶ使い勝手の悪い魔法と、航空機ではなくたこ型のグライダーにこだわる点が、やはり皆に嫌われたのではないかと思う。


 彼ら皆に、セコはいった。


 ――私が倍の働きをするから、パーティに入れてあげてくれませんか?


 これはヨウにもいったか。


 結果もヨウの時と同じ――セコも含めてパーティからキック――だった


 しかしセコは、皆を集めてチームを組み、全員が格好良く思うもので装備を揃えたのである。


「目標は――」


 この言葉を口にするのは感無量だ。



「レイドボスを狩る事。このメンバーでね」



 レイドボス――Raid強襲という言葉がついているボスは、定期的に来るイベントで出現するArms World最大のモンスター群。


 今となっては、最大といっても航空機を何機も飛ばして絨毯爆撃し、その他、レイドボスと共に出てくるモンスターとは戦わずに逃げるという事を繰り返せば、時間こそかかるがたおせるモンターだ。しかも、それが発覚して以来、「航空機以外はお断りです」とキックされる事が多い。今のヨウたちでも、大抵のパーティからキックされる対象だ。


 このチームでレイドボスを斃す事が、何故、夢なのか――?


 セコはいう。


「夢なんだよ。私の小学校時代、小さな学校でね。1クラス26人しかいなくて。そこに、仲良し五人組って名乗ってる男子がいた。その五人組と、残りの生徒21人でドッジボールしても、仲良し五人組が勝つくらい、ドッチボールで負かされてた」


 セコは溜息ためいきを一回。


「でもね、上級生の人が、いってくれたんだよ」



 ――あいつら、ドッジが上手い訳じゃない。上手いフリをしてるだけだ。



「5対21でも勝てるけど、上手くはないって」


 その言葉はセコの中に今も残っている。



 ――本当に上手いヤツは、誰とでもチームを組めるヤツの事だ。誰とチームを組んでも、チームメートの全員を活かせるヤツだ。あの5人組も6人目に誰か加えるつもりがあるか? ないなら、仲がいい事すら、フリだ。



「仲良くは、するものじゃなく、なるもの。でしょ?」


 セコに目を向けられて、モモは「そうですわ!」と胸を張った。


「一緒のチームに入れない人がいるという事は、一緒にプレーして仲良くなるチャンスを潰す事になります」


 セコの小学校で起きている事も、このゲームで起きている事も、根は同じだ。


「その上級生が格好良かったの。だから私は、その格好いい人になりたかった。誰とでもチームが組める。チームの誰もが長所を発揮し、短所を補い合う事ができたら、私は、このゲームが上手い、得意っていう証拠になる」


 セコは息を吸い込み――、



「何者かになれたんだって、いえるかなって」



 最高のチームを造り上げたのだと高らかに宣言できるのが、レイドボスを倒した時だ。


「みんな、手を貸して欲しい」


 改めて5人の顔へゆっくりと視線を巡らせるセコに対し、まず口を開いたのはヨウ。


「俺……ワクワクします!」


 セコの行動を見てきただけに、今のセコの姿に、「本当に上手なヤツは、誰とでもチームを組めるヤツ」といった上級生の姿を見ている気になる。


 それはモモも同じ。


「お兄ちゃんがそういうなら、私は行きますよ。綾姉様は?」


「いくよ。当たり前じゃない。オヤッサンとジョッシュも、同じでしょ?」


off courseもちろん!」


 ジョシュアはパンッと手を叩き、対称的にイーグルは黙ったままであるが、敬礼する様に手を振るのは「聞くまでもなかろう」という意味か。


「……ありがとう」


 趣味装備軍団は、レイドを目指す――!

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