第30話
機首に特徴的な二重反転プロペラと二基のターボテロップエンジンを装備する機体は、現実には存在しない航空機だけに、金属板の外装を持っていても空想的である。
「陸上戦艦がどうした! 地獄へ
眼下のフォートレス・エンペラーへ向け、イーグルが操縦桿を傾けた。水平線が一瞬にして回転し、完全に逆さまになった所でダイブ・ブレーキを全開にする。
イーグルの機体は急降下というには、あまりにも深い角度をつけ、それに伴い風を切る音を鳴らす。
ダイブ・ブレーキを全開にした事で鳴り響く風切り音を、歌声で船乗りを帰らぬ旅路へ誘う
その機体に乗せている武器は、ただ一つ。
20トン爆弾。
その重量故に、搭載すれば機銃どころか弾丸一発たりとも持ち込めないという爆弾は、現実世界でも史上最大級であり、これに勝る爆弾は核兵器のみという代物である。
それを垂直降下から投下する精密爆撃こそ、イーグルの真骨頂だ。
直撃。
轟音。
爆風。
しかし……、
「効かん!」
それでも尚、フォートレス・エンペラーは障壁魔法によって健在。
「その爆弾なら障壁魔法を突破できると思ったのか? 甘いわ!」
「心配せんでも、思っとらんわ!」
離脱しながら、今度はイーグルが嘲笑を向ける番だった。
「障壁魔法も盾魔法も理屈は同じじゃ! 強力な衝撃負荷がかかれば崩壊し、リキャスト時間は数分かかる!」
20トン爆弾でも突破できなかった衝撃魔法だが、障壁を破壊してしまうには十分な威力を備えている。
「この一瞬じゃあ!」
イーグルの叫びと共に、ヨウ、セコ、ジョッシュが12.2センチ砲を構える。
「障壁魔法の再使用まで、あと3秒ですわ」
タイムキーパーをしていたモモが告げた。
12.2センチ砲が貫くには、十分過ぎる時間だ!
「今だ!」
ヨウの目が――、
「トドメを!」
ジョシュアの目が――、
「刺せーッ!」
セコの目がフォートレス・エンペラーの急所に集中する。
砲弾の着弾は、その一瞬後。
急所を貫き、爆裂した砲弾は多砲塔戦車の崩壊を呼んだ。
――Critical.
その表示がなかったとしても、誰の目からも明らかな光景が広がる。
鉱山の奥にいた幻の王フォートレス・エンペラーは今、炎に包まれた。
「……よっしゃーッ!」
頭上でキャノピーを開けたイーグルが手を振っている。
「おじ様、素敵ですわ!」
負けじと声を張り上げ、大きく手を振るモモの横で、セコはヨウへ話しかける。。
「ギリギリだったね。ゴメン。クエスト失敗するところだった」
冷や汗も脂汗も掻いた、とセコは深呼吸を繰り返している。
「もっとやりようがあったかも知れないね。障壁魔法は、その中に入られると無効なんだ。接近戦を挑んでたら、もう少し楽だったかも知れない」
既に急所は露出していたのだから、そこにヨウのチャージスピアを叩き込んでも終わりだった。
「近づければ……ですよね。最後の全砲門発射されてたのを見たら、近づくのは無理だったかも」
今となってはベターかも知れない作戦は出てくるが、ベストは出てこない。そもそも倒すだけに特化してベストにするのは、功利的な行動となり、ヨウを
「そうかもね。ウィキョウさんや忍冬さんみたいなのは、私も嫌かも」
セコがヨウに苦笑いしてみせると、その二人へ向かってジャンプしたモモ姫が、ギュッと二人の顔を寄せさせた。
「でもでも、勝ったんですよ! 私たち! あのノートリアス・ビッグに!」
量産型の装備で、最短時間を目指すチームならばいざ知らず、趣味装備軍団の勝利は性格が違う。
「お姉様の目標、ついに手が届くかも知れませんわ!」
思わず大声でいってしまったモモに、ヨウは少し小首を傾げて、
「目標?」
「うん。私にも、目標があってね。いずれ話すよ。ヨウくんも、協力してくれると嬉しい」
セコは軽く流した。
今はもう一度、崩れてしまった鉱山からクエストクリアのアイテムを探すのが先だ。
これでヨウは、念願の航空機に乗る権利を得る。
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