第24話

 航空機の使用許可が下りるクエストは長丁場になるから覚悟しろ、とセコはヨウに教えた。


「モンスターの中に、獣人ってカテゴリーの敵がいるの」


 ゴブリンやオーク、コボルトといったファンタジー系のゲームではお馴染みの存在が、このArms Worldにも存在している。


「今回は、鉱山の中にいるコボルト退治だね」


 HMDに地図を表示させ、目標地点を示すセコ。


「最終的な目標は、行動の最奥にある紋章を取って帰ってくることなんだけど……」


 言葉を濁すのは、このクエストの特殊性からだ。


 ヨウが「何か、あるんですか?」と訊ねると、セコに代わってモモが教えてくれる。


「このクエストは、目標が討伐ではなく紋章の獲得なので、敵が無限に湧いてきますの。ついでにいうと、最奥にはボスがいて、それが時折、ノートリアスに切り替わります……」



 ノートリアス――初めてセコとモモに連れられていったクエストで鉢合わせた、悪名高いという意味の名前を持つ強敵だ。



 その時、戦ったノートリアス・ランバージャックの強さは、初心者が一人で狩れるラプトルの強さと比べれば3倍、4倍というレベル。


「奥にいるのが普通のボスキャラなのか、それともノートリアスなのかは分かりませんの」


 鉱山へ入り、到達してみて初めて分かる仕様である。


「獣人は、力そのものは弱いが、何せ数がおるんじゃ」


 今回は参加できるイーグルは、フンと強く鼻を鳴らしていた。


「挙げ句、鉱山にはゾンビ系の敵が出る。それらを掻い潜った後に、そのボスキャラをどうにかせねばならないんじゃ」


 腕組みをして俯くイーグルに、ヨウはひとつの言葉が出て来そうになる。


 ――難しいですか?


 実際に、出ようとしたその時だ。


「ふふふ……腕が鳴るわい!」


 顔を上げたイーグルには、不敵の二文字がよく似合う笑みが。


「おじ様も、格闘の遣い手ですの。ゾンビやスケルトンみたいな敵には、打撃の相性がいいんですのよ」


「おう」


 モモの言葉に、イーグルは大きく頷いた。


「スケルトンは骨、ゾンビは身体が腐っているからの、槍や矢の様な刺突武器は威力半減、剣や斧といった切断武器でも7割の威力にされる」


「強敵ですね……」


 ヨウは自分の武器へ視線を向けていた。ヨウの武器は、イーグルが作ってくれた短小銃と、初期装備の次に作った槍しかない。今回、ゾンビやスケルトンと戦うには分が悪いのだが……、


「しかし、格闘だけは別じゃ!」


 イーグルとモモは90度に曲げた肘を身体の横でWの形に構える。


「おじ様、頼りになりますのよ。私より元気でパワフル!」


 二人がいいコンビなのだと確認できたところで、セコがHMDに表示させていたマップを拡大する。


「まぁ、手順はこうしよう」


 思い思いにしたい事をすればいいというのがチームの方針であるが、それでも逸脱できないルールは存在する。



 今回、ヨウの航空機使用許可だけは、何があっても捥ぎ取ってこなければならない。



 作戦は必要だ。


「まず、獣人は仲間を呼ぼうとするから、入り口に立ってる見張りは狙撃で始末する。これは、ジョッシュ」


「アイアイサー」


 敬礼するジョシュアは、身の丈程もあるライフルを装備していた。


「得意なンだ、獣人。任せてクレ、サンボーイ」


 傭兵を名乗るジョシュアは、銃器と兵器を自在に操り、その腕はセコが全幅の信頼を置いている。


 そして格闘でも、セコは信頼している相手へ声をかけた。


「見張りを倒したら、おやっさん、お願いね」


「任せておけ。坑道内は落盤が起きる可能性があるから、銃器の使用は禁止した方がいいからの」


 接近戦こそが活きる場なのだといえば、このチームで攻撃のスペシャリストとして、綾音あやねの名前も挙がるのだが、


「同じ理由で、私も忍法が使えないわ。バックアップに回る」


 忍法ではなく魔法だが、そこは誰もツッコミを入れない。成り切りキャラも、このチームでは全肯定だ。


「じゃあ、頑張ろうか」


 チーム全員で動く初めての戦いに、心なしかセコの顔は紅潮している。

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