第15話
それが戦闘不能に陥った感覚である。
次にヨウの周囲の様子を把握できたのは、フィールドの外れにある山小屋のような場所だった。
ゴーグルに表示される単語は……、
――Respawn.
それは戦闘不能から復活した事を示す用語で、セコからのメッセージが続いていた。
――ごめん、
即死させられると思っていなかったのは、セコだけでなくモモも同じく。
――防御魔法も間に合わせられませんでした。ごめんなさい!
防御魔法があっても持ち
――今、戻ります!
槍を掴んだヨウが、小屋を飛び出す。即死させられた自覚はある。
――大きさが違うんだ! 攻撃力なんて段違いで当たり前だろ!
モモと二人で戦った鎧竜とは、2トントラックと4トントラックくらい違う。防御力も攻撃力も段違い――とは、頭で分かっていただけだった、とヨウは思わされていた。
走る足が
――ひょっとして、俺がいない方が戦いやすい?
パーティメンバーが戦闘不能になった回数が3回に達せば、この依頼は失敗となる。
即死させられる危険が常にあるヨウは、この戦いでは間違いなく
――鎧竜は小型でも中級者向け。大型なら、上級者じゃないのか?
寧ろセコ、モモ、綾音の三人でいる方が倒しやすい相手だとも思いかけるが、
「いいや」
首を横に振り、その考えは打ち消した。
三人の方倒しやすいからといって、このまま安全圏でサボっているのは、それこそ寄生プレーではないか!
「今、行きます!」
鈍っていた足に気合いを入れるためにも、ヨウは声を張り上げた。
***
セコがヨウに送ったメッセージは、
――見誤ってた!
セコは自分のミスだと思っている。装備の充実度でいうならば、ヨウは未だ揃っているとは言い難い。以前、狩ったラプトルの素材で作った革製の防具が精々なのだ。
「もも姫、ヨウくんが戻ってきたら――」
「防御魔法! わかってますわ」
防御魔法を頼むというのは、モモとて今更、セコにいわれるまでもなく心得ている。そして技術介入させるならば、モモはもう一つ、手段を持っていた。
「あとはタイミングを合わせて回復させれば、即死は回避できるかも知れません」
内部処理の関係か、HPゲージはいきなり0にはならない。ヨウが感じた視界の暗転や感覚の喪失は、HPゲージが減っていく時の演出だ。
その戦闘不能までのタイムラグを利用した回復は、セコでも意識的に行うのは難しいのだが……、
「チャレンジするかい?」
「チャレンジしますわ、当然」
モモも難しい事など承知の上だ。技術介入というのならば、モモが切り札にしている百烈拳とてそうなのだ。
「私にできるならチャレンジ! だから楽しいんですわ」
「その通り!」
チームの絶対的方針だ。
セコがいるから、モモがいるから、ヨウも楽しいと感じられるなら、それこそがチームで目指しているもの。
「……」
上空で矢を放ちながら見ている綾音も、それは同じ。
――悪い人じゃない。二人とも一生懸命なんだから。
現実の自分に対して一生懸命になってくれている両親を知っているだけに、綾音は二人を否定しない。
そして二人が支えようというのならばヨウを信じる。
爆弾を仕込んだ矢を番え、鎧竜へ――、
「まずい……」
いや、そこで上空にいるからこそ見えた。
ヨウが走ってくる方向へ鎧竜を誘導してしまった!
「着きました!」
走りながら槍を構えるヨウに向かって、鎧竜は突進から半回転。
「な……!?」
尻尾による薙ぎ払いには、前もヨウが痛い目を見せられている。
防御態勢を取るも、槍の防御態勢はダメージを無にはできない。
――突進じゃないなら、ハイパーアーマーもないだろ!
直撃はされないと思いつつも、命中する寸前、ヨウはいった。
「すみません!」
もう一度、戦闘不能になってしまうと直感させられたが、尻尾が当たった直後、まさにコンマ何秒というタイミングでモモから回復魔法が飛んでくる。
「大丈夫ですわ!」
狙ってできるのは何度かに一度でしかない幸運だが、モモはラッキーなどとは口にしない。
それはセコも同じ。
「何とかなった! それでOK!」
鎧竜の尻尾を打ち払うようにスレッジハンマーを振るうセコ。
その尻尾へと、上空から綾音が飛び降りてくる。
「このゲームは――」
弓を投げ捨て、背に回していた小太刀を取り、
「野球と同じ、3死になるまで勝負は続く!」
まだ1死に過ぎないが、もう二度と戦闘不能にするつもりはないと振るった一撃は、鎧竜の尻尾を斬り飛ばしていた。
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