第14話
綾音からの報告を聞いて、セコは一度、肩を竦めた。
「XLだってさ」
そのジェスチャーが意味する事は「お手上げ」ではない。
「いいじゃないか。一回で、色々と手に入る」
体格と比例するのは強さだけでなく、手に入る素材の量も同様だ。
しかしXL――特大と聞いて、ラッキーと考えられない者もいる。
ヨウだ。
――運がいい? 悪い?
モモと二人で撃退できた相手だから、少しくらい大きくても四人がかりならば……もっというならセコ、モモ、綾音の三人ならば、と考えてしまうのでは、嫌われる方の初心者と同じ。
「えー……」
感情が表情に出てしまうような事はないのだが、ただ無言でも察せられるのがフルダイブ型ゲームの長所だ。
ヨウの背を押すモモの手がある。
「強敵ですけどね」
その手も、言葉も、軽い。
「また急所にロマン突きを決めて、今度は倒してしまいましょ」
モモの言葉は、プレッシャーを与えるだろうか?
「お兄ちゃんが決める所を見てみたいから、頑張って支援しますよ」
モモがいっているのは、お世辞でも、殊更、奮起させようというのでもなく、純粋な好意だ。
それはセコも同じ。
「砕くのは、任せなよ。今日はトンカチを持ってきたから」
セコが背に回している武器は、初めて三人で出かけた時の大剣ではなく、巨大なスレッジハンマーだった。急所を覆う外殻を砕くための武器で、また攻撃となれば、セコが自分より上と認めている者が参加している。
「それに綾音様も、そういうの得意だから」
プラントいう程ではないが、この四人で決めるクリアシーンを、モモは楽しそうにいう。
「二人がかりで鎧竜の岩石を砕いて、お兄ちゃんのロマン突きでキメ! これですわ~」
モモはパンパンと手を叩き、笑顔をヨウへ顔を向けた。
「前とは全然、違いますわ。お兄ちゃんの装備。防具もあるし、チャージスピアも中級のを持ってますし……何より、使い
ヨウの手を握り、要所要所で頷きを挟んで勇気づけていくモモ。
「全力を出しましょう。きっと――」
きっと……そこから先の言葉は、セコが引き継いだ。
「楽しいよ」
欲しい武器、欲しい防具を着けて、欲しい航空機を手に入れるために強敵と戦う。そのシチュエーションに懐く、このメンバーの共通した思いを、セコはフッと笑みを浮かべた口で言葉にする。
「燃えるじゃないか」
セコのいう通り、チームにとってゲームは楽しいものであるのが重要だ。
ならばヨウも、気合いが入るというもの。
「がんばります。いや、頑張ろう!」
ヨウが胸の前で拳を握り、その耳にドンと低い音が三人の耳に届くと、セコが目を細めた。
「始まってるようだね」
音が聞こえた方向へ向けたセコの顔には、ある確信が宿っている。
「行こう」
綾音が先制攻撃を仕掛けた爆音だ。
***
距離は離れていない。何分も走らされるようではゲームにならないのだから、綾音が単独で戦闘を開始したという事実が焦りを呼んでしまったヨウにとっては、体感時間こそ長かったものの、実際は2分くらいなものだ。
到着したヨウは、まず驚かされる。
「おお!」
XLといわれた鎧竜は、4トントラックはあろうという巨体。それが小型と同じスピードで動いているのだから、角速度がついて猛スピードで攻撃を繰り出しているように見えてしまう。
鎧竜に立ち向かう綾音は、グライダーの上で弓を構えていた。
「ッ」
引き絞った弓から放たれる矢は、鎧竜の背に当たった瞬間、小さな爆発を起こす。
綾音の得意武器だ、とモモが胸を張った。
「爆弾矢ですわ。先端に爆弾をくくりつけた矢で、当たったら点火されて爆発する」
頭上を取れば一方的な攻撃ができる――が、航空機が落としていく何百キロという爆弾やロケット砲とは比べものにならない。
「綾姉様は、5秒に一回、放てますの」
リキャスト――武器が再び使えるようになるまでの時間を待てば、綾音は狙いを付けずに矢を放つ。
そう、狙っていないのだ。
弓を引き分けた時、左右の腕、足、胸など、身体のあらゆる筋肉の押しと引きが釣り合えば、的の正面に立ちさえすれば必ず当たる。
綾音は弓道の知識を身に着けていた。
モモの百烈拳と同様に、装備や数値に頼らない純粋な技術介入である。
当然、鎧竜のヘイトは綾音に向き、その隙を突こうとセコがハンマーを両手持ちにした。
「よし!」
視線と意識は鎧竜へ向けるセコは、声だけをヨウへ向ける。
「前回、ヨウくんは後ろに回ったね。それも悪くないけど、こいつの弱点は――」
セコが身体を滑り込ませたのは、鎧竜の真横。
狙うのは、腹だ。
その狙いの意味は、ヨウにも分かる。
――そうか。岩石や金属で覆われてるから、肋骨がない体型でも守られてる気がしてたけど、鎧竜も四本足で立っている動物だから腹が弱いんだ。
効かないかも知れない、と思ってしまったのは、初心者らしいミスだといえる。
セコのハンマーが炸裂し、鎧竜に悲鳴をあげさせた。次に来るのは尻尾の横なぎだが、それをセコは全店の要領で開扉する。
「何より、横は尻尾も届きにくい」
もう一発、鎧竜の腹にハンマーを振るったセコは、ヨウへ手招き。
来いといっている――ヨウはそう思った。
「よし!」
チャージスピアのスロットルが開かれ、穂先を赤く染めてゴンッと炎が吹き出す。
「セカンド・イグニッション――」
その槍を、鎧竜の腹へ……と、その思いは寸断される。
何が起きたのか、すぐには分からなかった。
目の前が暗くなり、急に足が立たなくなる。
武器を保持していたはずの腕の感覚は怪しくなり、槍を待っているのかどうかすら分からない。
それと共に、何かが切れる音を聞いた
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