第9話
航空機からの爆撃や銃撃でモンスターを倒した場合、手に入る素材が減るという弊害があるのだが、現在、ArmsWorldでは航空機による攻撃が主となっている。格闘戦で時間をかけて倒すよりも、爆撃で一気に殲滅し、それを繰り返す事が効率的とされているからだ。
今し方、二人が見た航空隊は、モモがいった通り、鉱床に巣を作っている
――巣穴が見えました。
先頭の一機から各機へメッセージが飛ぶ。
――降下して、ロケットをぶち込め!
各機一斉に急降下を開始し、横穴になっている鎧竜の巣穴へとロケット弾を発射した。
***
逃げる準備をしながら、モモは頭の中で時間を考える。
「爆弾からドラゴンが逃げ出してきます。怒った状態だから、見つかったら襲いかかってきますよ」
爆炎が見えたタイミングと爆音が聞こえたタイミングの時差で、距離を計算するのだ。
――同時! 間に合う!?
相当、近くに巣穴が出現していたらしい。
「ああいう効率重視の人は、残らず狩るなんて事はしませんから、何匹か来ます」
逃げましょうと、モモはヨウの手を引いた。
鎧竜がどのルートを通って逃げるかは分からない。
ただもう一つ幸運もある。
「大きな鎧竜は飛行機が狩っていくでしょうから、遭遇するなら小型です」
中級者から上級者まで幅広く狩れるモンスターであるが、モモの予想では自分たちが遭遇するのは小型――中級者ならば狩れるレベルの個体。
それでも初心者で、装備も揃っていないヨウが狩るのは難しい。
「逃げ切るのも、難しくはないですから――」
モモはヨウを連れて逃げる選択を……、
選ばせてもらえなかったらしい。
「!?」
地響きのような振動に、ヨウが足を止めてしまう。
そして見た。
先日、セコ、モモ、ヨウの三人で狩ったランバージャックとは違い、重量感を感じさせる、文字通り鉱石の鎧に覆われたドラゴンだ。
足を止めるモモは、逃走を諦めるしかない。
「……かばい合いましょうね?」
一頭だけであるから、二手に分かれればヨウかモモの一人だけは無事に逃げ切れるが、その選択はモモにもヨウにも不可能だ。
セコのチームにいる以上、二人は共に生還する事が目標なのだから。
モモと並び、ヨウは槍を構える。
「うん」
前回から一つだけ更新したヨウの武器だ。セコから渡された槍と同系統で、まだ初期段階であるから威力こそ低くなってしまうが、ランバージャックの急所に突き立てたチャージ攻撃もできる。
鎧竜の目が二人へ向いた瞬間、モモは一歩、下がった。
「来ますよ!」
代わりにヨウはモモの前へ、一歩、
槍の穂先を突進に備え、鎧竜へ向けた。
このArms Worldはゲームであるから、全ての武器が攻撃力という数値を備えている。
それを利用したのが、ヨウの取る防御方法だった。
――命中させられればダメージを与えられる!
鎧竜が槍の切っ先に触れれば、突進中であっても有効だ。
何よりも、槍の特性で、この構えは攻撃と共に防御も兼ねる。
ただ初めて見る鎧竜の巨体に、ヨウの足は竦んでしまいそうになるが。
「このッ!」
それでもヨウは迫り来る鎧竜に対し、
迷おうと迷うまいと、激突は必然である。
「うわ!」
防御態勢を取っていても、ヨウは吹き飛ばされ、ダメージを受けた事を示すようにチカチカする視界に顔を歪めさせられた。
続いてバウンド。痛みこそないが、地面でバウンドした感覚は平衡感覚を失わしてしまう。
それでも直ぐさま起き上がるのは、心に懸かる思いがあるからか。
――もも姫!
補助と回復の魔法を主としているモモの装備は、武器も防具も軽いものにしているという事以上に、ヨウを立ち上がらせたのは――、
「前線は、俺!」
初期装備に少しばかり追加したものしかないヨウがいうのは
起ち上がるヨウへ、モモは戦う力を与える。
「防御魔法をかけました」
モモの伸ばされた手から飛ぶ魔法は、盾となってヨウの眼前に展開した。
「鎧竜の突進は、ハイパーアーマーです。槍の防御態勢でも相打ちになるって覚えておいて下さい」
鎧竜のような重量級の突進は止められない。
「避けるか、逃げるか、です」
「わかった!」
逃げるも避けるも同じじゃないかと思いつつ、ヨウは鎧竜に向かって走った。
――正面はダメだ!
回り込め、と進路を変えるヨウは、その尻に槍を叩きつける。回り込みは、ランバージャックの時、セコから基本だと教わった。
――ドラゴンは肉食獣をモチーフにデザインしてるから、視野は前方の200度くらいなもんだろ!
ヨウは目の位置から推測した。ある程度に過ぎないにしろ、リアリティを持たせているArms Worldでは正解といえる。事実、鎧竜の視野は最大で200度、注意して見つけられるのは120度という所だ。
それでも背後に回り続けようとするヨウの行動は、単純化してしまえば悪手と化す。
モモからも注意が飛んでくる。
「気を付けて!」
回復魔法によって標的を散らすモモが告げるのは、鎧竜は単純ではないという事。
「背後も、死角ではありませんから!」
モモの注意は、ある意味に於いては最高のタイミングだった。
ただし、もしもヨウがセコくらいまでゲームに慣れていたならば。こういう時、こういう声で
取れれば最高のタイミングでも、取れなければ最悪のタイミングになる。
「へ……?」
何をされたかに気付いたのは、地面に叩きつけられた後だった。
「尻尾……?」
死角に潜り込もうとしたヨウを、鎧竜は尾を薙ぐ事で吹き飛ばしたのだった。
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