第8話
ヨウが欲しいと言っている航空機に必要な素材で、数が必要なのは装甲になる金属か、モンスターの甲殻である。
そろを得る方法はいくつかある、とモモは教えてくれた。そのひとつが、オープンワールドのフィールドで採掘、採取する方法である。
「協力してやっていきましょう」
依頼も何も受けずに外に出たモモは、森の方を指差す。
「木材とか金属とかを加工できる人がチームにいますから、そういう素材を集めておけばいいですわ」
そういうモモと並んで歩く道々に、こちらの姿を見つけて突進してくる敵はいない。
「道沿いには、積極的に襲いかかってくるモンスターは出ませんの」
街の近くは開発されている設定だからだと説明されても、まだ分かっていないヨウからは、「なるほど」という短い返事だけ。
そんなヨウへ、モモは笑う。
「ゲームですの、ゲーム」
現実ではないのだ。
「ゲームに求められるのはリアリティ。リアルじゃありませんわ。現実だったら、街の近くだから、街道の近くだからといって、野生動物が少ないという理由にはなりませんけど、ゲームの設定ですわ。それに現実なら、武器に攻撃力、服に防御力なんて数字、ありませんもの」
モモは思い切り背伸びして、
「ゲームで遊ぶ。それが、お姉様のチームの方針です」
「そう……だね」
その返事は、ヨウが何とも思わず出したもので、モモの顔にパッと花が咲いたような笑みが浮かぶ。
「あ!」
敬体でなく、常体で話しかけてくれた――モモにとって、大きな一歩だと感じられる変化である。
「それでいいですわ。私はお兄ちゃんのチームメイト、モモです」
その時のモモの様子を表すとしたら、こうなる。
喜び勇んで。
「じゃあ、森の方へ行ってみましょう!」
モモはヨウの手を取った。
***
主に回復役を担っているモモと二人で行く事になるため、前回のようにノートリアスが出現するような状況は手に余る。
だから今回、モモはモンスターとの戦闘が発生しにくい採掘、採取を選んだ。山や森に入っていくのだから、偶発的な戦闘はあるが、依頼を受けていない状況では、主としては起こらない。
「ゴーグル越しに見て、キラッと光ってる部分があったら、そこには素材がありますの」
そういうモモの手には、いつの間にかツルハシやスコップ、斧といった道具が握られている。空中から現れたとしかいえない道具は、何ともゲーム的であり、その斧を木に振り下ろしても、切り倒せる訳ではないというのもゲーム的だった。
そしてゲーム的といえば、小柄なモモが斧を振るっている光景もそうで、ヨウは出てきた素材を片付けながら首を傾げてしまう。
「何か、不思議」
本来、木を斧で切り倒そうとすれば小一時間かかる作業であるし、斧すら持ち上げられなさそうなモモは、力一杯、振り下ろしているようにも見えないのに、木が原木に変わるのだ。
そして木も、切り倒されるわけではなく、その場に残る。
不思議な光景だが、モモはいう。
「実際に切り倒して、はげ山にする訳にも行かないからでしょうね」
「大きさもね」
ヨウが手を伸ばした原木はトラックに積んでいくくらいの大きさがあるのに、手を触れるとスッと消えてしまう。「収納された」と説明がなされているが、ゲームであるという事がわかっていなければ違和感が強い。
しかし、それはそれでいいではないか、というのがモモの意見だ。
「すんなり受け入れられるのが、ゲームなんですわ」
モモが可笑しそうにいった言葉は、周囲にゴッと舞った風と轟音とが掻き消しそうになった。
「うわッ」
風に向かって手を
「飛行機です」
モモが指差した先には、編隊を組んで飛翔していく航空機があった。
「あれは攻撃機タイプですね。爆弾を少し多く積められるようにしていましたから」
厳密に分類されている訳ではなく、プレーヤーの間で通じる俗名だけど、と前置きして、
「ドッグファイトしやすいように調整されたのが戦闘機、さっきみたいに爆弾をたくさん乗せていくのが攻撃機。爆弾だけ載せて、爆弾を運んで落とすのを繰り返すだけに特化させるのを爆撃機」
ざっくりといえば三種類としながらも、モモは「そうですね」と一旦、言葉を切る。
「お姉様が作ったような、戦闘も攻撃も出来るタイプもあるので、通称なのです。戦闘機をF型、攻撃機をA型、爆撃機をB型って呼び方もありますけど」
と、次の瞬間、モモが
「わ!」
ヨウに説明するのに夢中で、今、飛んでいった航空隊が意味する事を失念していたのだ。
「今の飛行機、巣穴を狙うつもりかも!」
「巣穴?」
小首を傾げるヨウに、モモは上流を指差し、
「ここで鉱物資源が取れるでしょう? つまり上流には鉱床があって、そこに竜種……ドラゴンが住んでるんです」
少しばかり慌てた様子のモモであるが、ヨウは「へェ」とのんきな声を出し、
「いずれ、狩れるようになりたいなぁ」
モンスターを狩るゲームとなれば、花型になるモンスターはドラゴンというイメージがある。それと戦えるくらいになるのが、上級プレーヤーの証という印象があり、それを想像しているようだが……、モモはのんきな話をしているのではない。
「……前に、今は飛行機で爆弾落としまくるのが流行っていったでしょう? 今、まさにあの飛行機は、それをしに行った訳で――」
モモが噛み砕くように説明している言葉は、爆風を伴った轟音が
「爆弾を、巣穴に放り込みましたね……」
モモが若干、青い顔をした気がした。
依頼を受けていなくとも、偶発的な戦闘はある。
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