1-2 赤のローブと黒のリリア
小さな村の道端に俺は立っていた。
少し離れたところで、男同士の争いが起こっている。
とは言っても、赤のローブを着た男がもう一人の男を一方的にいじめているようにしか見えない。
鮮血が飛ぶ。
片方の男は、尻もちをついて攻撃されるがままだ。
「草! おらおら、死ねよ。さっさと死ねよ」
「や、やめてくれよお、僕はいま、ここに来たばかりでさあ」
「俺は初心者キラーだ。草草!」
赤いローブの男が、片方の男にまたがる。
「死―ね! 死―ね。草! 草!」
赤のローブは、ダガーを男の顔面に突き刺す。
男たちの頭上にはHPバーがあった。
そこに名前も書いてある。
赤のローブの男はレンというようだ。
攻撃を受けてじたばたもがいている男はタカシというらしい。
……本名なのか?
自分の頭上を見あげる。
HPバーがあり、トキトと書かれている。
どうやら名前は本名で、苗字は省略されているらしい。
タカシのHPはぐんぐんと少なくなり、やがて力尽きた。
この世界で死ぬことは現実の死を意味するはずだ。
今ごろ、現実のタカシの脳はマイクロ波で焼かれているのかもしれない。
そう思うとぞっとした。
俺は怖くなってその場を離れようと歩き出す。
「おい、お前! 草!」
レンがこちらにダガーの先を突き付けていた。
歩いて来る。
やっべ!
標的にされたのかもしれない。
俺は歩く足を速めたがレンは追いついてきた。
走れ。
そう思った時、俺の後ろに躍り出る影があった。
「ぐえっ!」
立ち止まって振り返ると、レンが腹を押さえて地面に膝をついていた。
「初心者キルって、そんな楽しいのか?」
ぶっきらぼうな女性の声だった。
躍り出た女性は、黒のジャケットを着ており、女性にしては背が高かった。
165cmはありそうだ。
俺より少し低い。
彼女は赤のローブに蹴りでもかましたのだろうか?
彼女のHPバーを見ると、リリアという名前のようだった。
「くそっ、誰だてめえ、草ぁ」
「名乗るほどの者じゃねーよ。だけどお前、これ以上ここで初心者キルをするんだったら、あたしが相手になる」
リリアは両手に一つずつ剣を握る。
双剣使いのようだ。
彼女のショートカットが風に揺れてなびいた。
「お、女は殺さないと決めているんだ。草ぁ」
「お? 何だそれ? 逃げる言い訳か?」
「逃げるだと? ぶっ殺すぞアマ! 草草!」
「おお、やろうじゃねえか。ぎったんぎたんにして、おめーのちっちぇえ人生終わらせてやるよ」
「いい気になるなよ! 草!」
レンが走る。ダガーで突き刺そうとした。
瞬間、リリアが半身をそらして足払いをかける。
レンが地面に前のめりに倒れていく。
彼が慌てて立ち上がる。
その喉元にはリリアの剣の切っ先が向けられていた。
「チェックメイトだ」
彼女は口の端をつり上げる。
俺は心の中で拍手喝采をした。
遠巻きにこちらを見ていた人々が出てきて拍手を送っている。
「く、くさ」
レンは早口に唱える。
「草草! エスケープ」
途端、その場に煙が起こる。そういうスキルだろうか?
煙に紛れてレンは姿を消してしまった。
煙が晴れると、リリアは辺りを見回した。
レンがいなくなったことに安心したのか、こちらを振り向いて近づいて来る。
俺は頭を垂れた。
「あ、ありがとうございます!」
リリアは双剣を鞘にしまう。
「良いってことよ。だけどあんた、見たところゲームに来たばかりみたいだな。気をつけろよ。死んだら終わりだからな」
彼女はすぐに背中を向ける。
そして歩き出した。
え?
てっきり初心者の俺に、この世界の歩き方を教えてくれるのだと思った。
……そんな甘くねーか。
期待してしまった自分が恥ずかしい。
俺もその場を離れることにした。
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