第14話 イタイ
暗闇の住宅街。ポツポツと並ぶ街灯の下を二人で歩く。学校の話や部活の話、いつもの通り、他愛もない話をしていた。遥を目の前に、私は言い出せずにいる。遥かに好きな人がいるのか。それはもしかすると私ではないのか…。それを聞いたら、こうして二人で歩くことも出来なくなるかもしれない。それは私の答え次第ではあるのだが…。でももしかするとただの勘違いかもしれない…。でも、もし本当なら私はなんて答える? 遥の気持ちに。でも…でもでもでも、ずっと「でも」を繰り返して私の思考はループする。
「それじゃ、また明日ね! バイバイ」
そうこうしている間に、二人の家の中間地点まで来てしまっていた。遥は笑顔で手を振って行こうとする。
「待って! 今日は送ってく」
私は慌てて遥の後を追いかけ。隣に並ぶ。
「え、いいの? ただでさえ待たせたのに」
「私が好きで待ってただけだし」
「…そっか…ありがと」
遥はとても優しい笑顔で本当に嬉しそうにそう言った。私は改めて、綺麗だな。と思った。胸がジワッと何かが染み出す様に暖かくなる。こんな子が、私を好きだったら、私は…。
二人でまた歩き出す。今度は何も喋らなかった。何も喋らなくても気まずくない。何かが二人の間を繋いでいるようなそんな感覚を私は覚えた。そして、これを決して失いたくないと思った。だからか分からないが、私は緊張もせず、言った。
「遥」
「んー?」
「手、繋ごっか」
「え…」
「友達なら普通。でしょ?」
「…うん。そうだけど」
「ほら」
私は左手を差し出す。今日も手袋は忘れてきた。遥は着けていた右手の手袋を外すと、手を伸ばす。私はその手を掴む。やはり、遥の手はとても暖かかった。その熱が私の手を伝い、胸にまで届く。私の胸をさらに熱くさせた。
「私の手、冷たいでしょ。手袋また忘れちゃって。ごめんね」
「ううん…あったかい」
「嘘だよー。私冷え性だし」
「全然…。凄くあったかいよ」
遥の顔を見ると、街頭に照らされ、うっすら目が潤んでいるように見えた。
「…そっか」
私は急に気恥ずかしくなって、繋いだ手をブンブンと振った。
「さぁー! 帰りましょー!」
「わっ! 何急に!」
「遅くなっちゃうよー!」
「ふふふ、そうだね」
私たちは人目も憚らず、小学生のように繋いだ手を振って帰った。
遥に聞きたいことは聞けなかったが、もうそれでいいと思った。こうやって二人の時間が続くなら、関係なんてどうでもいい。他のことなんて全て、どうでもいい。多分私は逃げているだけなのだろう。でも、二人でこの先も一緒にいたい。それだけは確かだ。
「あんた、その子のこと好きなんじゃないの?」
「なっ」
谷さんはあっけらかんとそう言った。谷さんにはことの経緯を改めて細かく説明した。友達が私のことを好きかもしれないこと。それを聞こうとしたが聞けなかったこと。その子と手を繋いで帰ったこと。その子とずっと一緒にいたいと思ったこと。我ながらよく公に出来たと思う。恥ずかしがり屋の自分にしては良くやった。だが、
「違う! …と思う。友達でもあることでしょう?」
「いや、まぁ、ないこともないだろうけど。なんかこう、青春感が強い。眩しい。辛い」
「それ関係ある?」
「ない。私の感想」
「何それ…」
「とりあえず、今現在の情報だけではその子があんたをどうこうってのは分からないかなぁ。というか聞いてなかったけど、まず、なんであんたはその友達があんたの事好きかもしれないって思ったわけ?」
「それは…」
「それは?」
「うちに来た時、肩に寄りかかってきて…」
「寄りかかってきて…」
「なんかこう…声が…」
「声が…」
「あのさ、繰り返すのやめてくれない? 話辛い」
「あ、ごめんごめん。それで声が?」
「なんていうか声が、その…エ、エロい? 感じでさ…」
言っていてとんでもなく恥ずかしくなった。私は顔を手で隠して俯いた。
「うん。それで?」
「え、それだけだけど…」
「え、そうなの? そっか、う〜ん。は〜、なるほど」
「で、どう思う?」
「分からん」
谷さんは首を横に大きく振って、お手上げポーズを取った。
「えぇ…使えねぇ〜」
「こら。先生に向かって『使えねぇ』はないだろ」
「あ、すみませんでした」
「う〜ん、しかし、聞いた限りじゃどっちとも言えんなぁ。そういうスキンシップが多い子っていないことはないし。仲良くなったなら尚更」
「そうだよね…やっぱり私の勘違いなのかな?」
「そのエロい声ってのもさ、あれじゃない?」
「何」
「あんたがエロいこと考えてたからそう聞こえたんじゃないの?」
「!!!!」
谷さんの言葉に私は絶句した。遥じゃなく、私が?! ベッドの上だったから?!
私は立ち上がって、谷さんの肩をバシンと叩いた。
「いたいっ! 何すんの!」
「っんなわけないじゃん!! あほっ!」
「あほってあんたねぇ…それにね、境、心配する事ないよ?」
「何が!」
谷さんは私に向き直り、真面目な顔をする。
「思春期じゃよくある痛い痛い!!」
今度は谷さんの肩をバシバシと何度も叩いた。
「仲いいんですね」
声が聞こえてハッとする。振り向くと保健室の入り口に遥が立っていた。
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