第35話 後日談「質疑応答」
HN(ハンドルネーム):もみじおろさないさん
モシナナさん、質問です。ボルトボードユニットを現在使用している人口の割合が、ポピュラーとモラトリアム、どちらの層も約94%と、ほとんどの方が使用しているというデータが公表されましたが、開発当初から、ここまで浸透すると思っていらっしゃいましたか? また、以前の主要な移動手段であった「自動車」を捨て、皆が新たにボルボを使うようになった理由は、主にどんな理由からだったんでしょうか? 教えていただけると嬉しいです。
「――――との事です~。まぁ、確かに皆使ってますもんねぇ~、ボルトボード! モシナナさん、この質問内容ですが、現在どういった風にお考えですか?」
キャスターのハキハキとした聞き取りやすい声を受け、モシナナは、うーん、と一時考えてから質問に答えていった。
「一個目の質問はですね~、結論からいえば、『思ったより早かった』って感じですかねぇ。市民権を得るのは当然の流れだった気がしてましたけど、それが僕としてはもう少しゆっくり浸透するかな、と思ってました~。ほら、皆新しいものを受け入れるのに、時間が掛かるじゃないですか~? 流行りものをすぐ使うのが怖いってタイプの人も居るだろうし、それまで使ってたものに、愛着とか、安心感とか信頼みたいなのを持ってる人もいると思うし~?」
モシナナはそう言いながら、周囲のギャラリーにゆっくり視線を向ける。
「ええ、そうですよねぇ~! 私も、日用品とかは新しい物が出ても、これまで使ってた物が使えるならまだ使おうって、更新する事を先送りにしちゃう癖ありますよ。よく言えば『物を大切にしてる』って言う感じです。あっはっは!」
「うん。だからね~、もう少しじんわり広がるかなぁって感じで、思ってました!」
「二個目のほうはどうなんですか?」
「二個目の方は、ボルボを使うメリットの方が大きかったから、じゃないですかねぇ?」
「あ~、確かにメリット大きいですよね、ほんと!」
「うんうん。まず、自動車と違う大きいメリットで浮かんでくるのが、『コストが圧倒的に掛からない事』と『三次元レベルで移動できる事』ですかねぇ。それは階層レベルでのコストなんですよね。貨幣経済が無くなった今の環境でも、そのかつてのお金と同じような価値を持ってる物が実は残ってて、それが『時間』なんですよね~」
「時間ですか~」
キャスターは、うんうん、と頷きながら、モシナナの話をしっかり聞いていた。
モシナナはそれから、現環境における時間の優位性を話し始めた。
人手が機械に賄われる社会でも、自動車製造には時間が掛かる事。それと比較すれば、ボルボは圧倒的に時間が掛からない事を説明した。
「僕が以前参加していたチームの発表した階層電解融合論、皆さんに耳馴染みのある言葉にすると『レイヤーボルタナイズ』って奴です。それの実現で、ボルボはようやく開発を進める事ができました。それは結構もう知ってる人も多いと思うんですけどぉ~……」
「うんうん!」
「ボルタナイズが出来ていれば、後は電気で乗り物を作るだけだからねぇ。出来ちゃえば全然時間は掛からないんだよね。それが長所というか、大きいメリット。短時間で手に入るところだね!」
「確かにそうですよね。自動車は、貨幣が無くなったからといっても、実際手に入るまでに時間が掛かる代物でしたからねぇ」
それから、モシナナはもう一点の問いについても説明した。
三次元レベルでの移動についてである。
自動車の移動は二次元的なものだから、「渋滞が起こりやすい事」や「地形からの影響を受ける事」が弱点であると指摘しつつ、三次元の魅力を説いた。
「飛行機やヘリコプターが、もっと安価で、個人的な物になればいいのになぁって、そう感じていた人って、昔から多かったと思うし!」
シズクととイリスは、ここまでのやり取りを聞いて、モシナナに関心する事しきりだった。
研究者のモシナナが話す内容は、おそらくこの周辺にいるどの人間にとっても先鋭的で、自然と興味が湧くものだった。
だが、ワーストという文明を生きていたシズクとイリスの二人にとっては、それがより一層強烈で、革命的に聞こえるのだった。
モシナナ・カンデラと女性キャスターは、時折身振り手振りを交えながら、談笑する。といった様子で、質疑応答を行っていた。
「では、続いての質問ですねぇ~」
キャスターが二人目の質問を読み上げる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます