第32話 ヴィヴィのリスタート【完結】
「うふふっ。ヴィヴィが、貴方達と一緒に居たいと思う気持ちもよくわかってるつもりなの。だからね、私達としても、ヴィヴィがモラトリアムを出たり、他の人間関係を作っていくというのなら、まずは貴方達二人と一緒であればいいと思っているの」
「‼」
「本当ですか⁉」
「お、お母さん……」
まさかの決断に、三人の心は驚きと喜びに溢れた。
「ええ。本当よ」
「お前、それは……‼」
ナーの決断に、ザランは少し何か言いたそうだった。がしかし、ナーはそこへ被せるかのように続けた。
「これでいいでしょう? 貴方も、こういう機会がなければ、いつまでもこの子を家に閉じ込めておいて、タイミングを見失っていたでしょう?」
ナーはそう言うと、今度はシズク達の方に向き直って言葉を続けた。
「これはとても良い機会だと思うの。ヴィヴィが貴方達と一緒なら、私達もある程度は安心できるし、それを貴方達も望んでいると思っていたけれど、違ったかしら……?」
「「違ってません‼」」
シズクとイリスは、何の迷いもなく即座に返事をした。
「ふふ。私も慧眼かしらね。貴方達は、ヴィヴィを絶対に裏切ったりしない。そんな気がするわ。もちろん、貴方達のやり取りを、影ながら見させてもらったからだけど。……これからも、我が娘をよろしくね」
「ふんっ……。俺は認めてないぞ……。お前らがヴィヴィを裏切った時のために、今晩から計画を練っておいてやるからな……。裏切ったらその瞬間に首が飛ぶように計画してやる。覚悟しておけ‼ ふふふ、ははは、はっはっはっはは――」
――――ドゴォッ。
「ゴホッ!」
ザランが高笑いしていると、ナーのその外見からでは想像できないほど素早い拳が、その脇腹に打たれた。
「え……つよ……」
「ナーさん……こわい」
「ふふっ、この人のこわーい冗談は気にしないでね~。私がそんな事させないから、三人仲良く、自由に暮らしていきなさい。ただ無理はしないように気をつけてね」
いやいや本当に怖いのは、そんなザランさんを一撃で黙らせてる貴方ですよ!と、二人は口が裂けても言えないのだった。
「ありがとうございます!」
「は、はい!」
「それと、シズク君、イリスさん。何か困った事があったらいつでも私達に頼ってきなさいね。私達は、ヴィヴィと同じように貴方達の事も気にしてるんだから」
ナーの柔らかな物腰を受けて、シズクとイリスは感動していた。
それまでの緊迫していた空気も相まって、その包み込むような優しさが二人に沁みたのかもしれない。
「あ、ありがとうお母さん……。それと、お父さん……ごめんなさい……」
母の快諾に感謝するヴィヴィだったが、やはりその一方で、まだ父の気持ちに対する申し訳なさが拭い切れていないようだった。
「ヴィヴィ、貴方は貴方が思う、できるだけ楽しい人生をこれから歩みなさい。困った事があったらあの二人に背中を預けてみなさい。それでも本当に困ってしまったら、その時私達に助けを求めなさい。私もお父さんも、いつも貴方の事を想っているから、安心して歩んでいきなさい」
「……はい」
ナーとヴィヴィのやり取りに、シズクとイリスも、じ~んと感極まってしまいそうだった。
そして、陰ながらザランも、なぜか皆に背中を向けてぷるぷると震えていた。
どうやら男泣きしているらしい。
……なんだ、普通に泣いたりもするんだな、この父親……。
そうシズクが思った瞬間、隣で同じように思ったのか、イリスは噴き出しそうになっていた。
イリスもシズクに気付いたらしく、目を合わせた二人はたまらず声を漏らしてしまった。
「ぷっふふ、はっはっはっは!」
「あっはっはっは!」
「何笑っているんだ‼ お前達‼」
泣いてる所を笑われたザランは、なかなか可哀そうな感じになってしまった。
「だって……、だってさっきまですごい剣幕だったザランさんがさ…‼」
そして、五人の間に和やかな空気が流れだしたのだった。
周りに見えるワーストの街並みは相変わらず寂しげなものだったが、シズクとイリスの心は明るく前向きで、もうすっかりワーストの名に相応しくない少年少女になっていたようだった。
※こちらのページで本編は完結となります。後日談を続けて投稿致します。お暇な方はお付き合いください。
作品が面白いと思っていただけた方は、評価・感想・レビュー等付けていただけると励みになります。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます