第18話 ナノポーター
「ほら、あれを見てみて」
「?」
だが、ヴィヴィは穏やかな口調で喋りつつ、図書館が見える方向とは違った方向を指差した。
彼女の指差す先に見えたのは、公園の端にいたロボットだった。
二人から少し離れたところで、この公園の植物の剪定をするロボットが二機見えた。
一機は、器用に淡々と枝葉を切って整えていく。剪定作業専門といった様子だ。
もう一機は、切られた細かい枝葉のクズを吸い込むための、補助作業をしているらしい。小さな吸い込み口の備わった自分の腕を、時に向きや位置を微調整し、クズが散らからないように絶えず動いている。
「ロボットでも、ああして作業している。どれだけ効率化が図られたり、人間が機械に代替されたりしても、社会や世界には、協力したり助け合ったりする瞬間がまだ無数に存在してるのよ」
その二機のロボットを見るヴィヴィの顔は、とても優しげで、しかしなぜか寂しげな印象もそこにはあって……。その時の彼女は、シズクに何かを感じ取らせるような雰囲気を持っていた。
「具体的な話をしましょう」
しばらくロボットを遠くから見ていた二人だったが、彼らが作業を終えたのを皮切りにして、ヴィヴィからそのような言葉が出された。
シズクは、頬の辺りをポリポリと搔きながら言った。
「階層移動の件?」
「そう。階層の移動にはこの『ナノポーター』を使用するの」
そう話すと、ヴィヴィは着ていたパーカーのポケットから、緑色のカードキーのような物を取り出した。
「何? このカードキーみたいなやつ」
「少し待ってて」
そう言って、ヴィヴィはまたしてもパーカーのポケットから別のカードを取り出した。
おいおい、一体何枚そのポケットに入ってるんだよ⁉とか余計な事をシズクは思ったが、そこから先は決してシズクにとっても初めて見る光景ではなかった。
二枚目のカードの一部にヴィヴィが指を当てると、聞き覚えのある電気音がその場に響いた。
ジジッ――ビリビビッビッ――。
「ボルトボードユニットか~。……あれ?」
二人の足元に、ヴィヴィのボルボが現れ出す。
「ヴィヴィのボルボって、なんていうか……、やたらと足場が広くないか?」
ヴィヴィのボルボは、これまでシズクが乗っていた物とは比較にならないくらいに広い面積を有していた。
電気で出来た二帖ほどのスペース、といった様子だ。
その上に、シズクとヴィヴィの二人が違和感なく立っていた。
「シズクが乗った事あるのは、おそらくデフォルトのボルトボードよね」
「デフォルト? その言い方だと、あれ以外に何かあるって言い方だな?」
「このボルトボードは、デフォルトタイプからさらに拡張させてるの。足元の面積を広げて、さらに体幹補助の強化パッチと、疑似ボックスモードパッチ、モニタリング遮断パッチとか、色々と手を加えてあるのよ」
「す、すごい……。それぞれがどういった機能なのかさっぱりだが、なんか名前はすごそうだな……」
パッチの名称からして、おそらくこんな機能かな~?なんて予想くらいならシズクにも出来そうだが、実際の機能は違うのかもしれない。
「ふふんっ♪ シズクもきっと自分にあったカスタムをこれから見つけていくはずよ。私が見たところ、貴方の適応力もなかなか『すごい』と思うもの」
「そ、そうか……? お褒めに預かって何よりだが、ちょっと待て。これで階層の移動をするって事だよな?」
「そうね」
「本当にできるのか? これ、いろんな人が持ってるボルトボードユニットだろ。その拡張機能に、階層移動できるものがあるなんて……」
「ふっふっふ~ん♪ 甘い。甘いのよ、シズク!」
おっぱいお化けのヴィヴィさんは、自慢げに指を「ちっちっちっ」と横に振っていらっしゃる。いい加減、本性を出し始めたか?
とシズクは得意そうなヴィヴィの顔を見ながらそう思った。
「普通はそうね。皆が階層の移動なんてできたら大変だし、そんな物は供給されていないの。でも、キーコネクションパッチというのがあるの」
「キーコネクションパッチ?」
「いくつかのカードキーを使用する事ができるアウトソース型のパッチの事よ。このパッチを使って、例えばボルトボードで移動中にエンタメ映像を見たりとか、電子書籍を読んだり、音楽をかけたりできるようになるの。言ってみたら、娯楽のためのパッチってとこね」
「なるほどなー。娯楽のための拡張か~」
「そう。そこで今の今今、このカードキーを使うの」
改めて、ここで先に見せていた緑色のカードを見せるヴィヴィ。
「あ、出た! また出たよ、今の今今!」
「あっ……」
喋りが進んだ結果、つい出てしまったのか「今の今今」を指摘されたヴィヴィは、急に顔を赤らめて口をつぐんだ。
「それ、なんなんだ? 今の今今って」
少しの間をあけて、ヴィヴィが恥ずかしそうに答える。
「く、口癖……」
「へぇー。口癖ねぇ……。今の今今」
ボソッと、口癖を言ってみるシズク。
「もう、いいでしょ……⁉ つい出ちゃう時があるんだから仕方ないでしょ!」
「ククククッ……まあ、そう……だなっ……ククッ」
おかしな口癖に、笑いを堪えるシズク。そんなシズクに、口を尖らせてムスッとした表情を見せるヴィヴィ。
「ふん。……もう説明やめる……」
「あ⁉ わ、悪かったって。笑わない! もう笑わないから、続けて続けて!」
「…………」
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